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 三時ごろ病室に着くと、祖母はいなかった。  散歩にでも出ているのかもしれない。  まりえが来ない日は、看護師さんやケアワーカーさんが散歩に付き添ってくれるのだと言っていた。  そう思い、勝手にベッド脇の椅子に座って、まりえはぼんやり祖母を待っていた。 「あらまあ、まりちゃんじゃないの」  いくらもしないうちに、祖母は戻ってきた。  付き添いの看護師に、まりえは立ち上がって挨拶する。 「こんにちは。お世話になってます」 「いえいえ、こんにちは」  それじゃ、と看護師は笑顔で出て行く。 「どうしたの、まりちゃん」  祖母が心配げに言う。 「あのね、おばあちゃん。誰にも言わないで……」  ベッドに座った祖母に、まりえは椅子ごと近寄って、今日の出来事を話し始める。祖母は、うんうん、と頷きながら聞いている。 「あらまあ。それは辛かったねえ」  と、まりえの髪を撫で、眼を見て優しく微笑んでから、 「でもねえ、匡久先生は、ほんとにお仕事だったんだと思うよ」と言った。 「前に四人部屋にいた時、向かいに横田さんていらしたでしょう。あの方、お昼前ごろに急変して、午後から市立病院に転院になったんだって。お昼ごはんの前から、病棟がなんとなく慌ただしかったのよ」  よく考えれば、病院という場所では、そういう事もしばしばあるのだろう、と想像はつくーー場合によっては、人の命が亡われることも。  それなのに、自分の事しか考えていなかった。まりえは、そんな自分に怒りを感じる。  ーー私は、匡久先生の事なんて考えていなかったんだ。先生は、人の命を守るお仕事をされてるのに。  祖母は言った。 「匡久先生を好きになるってことは、そういう仕事の人と付き合っていくっていうことなんだよ。それで置いて行かれるのが悲しいのなら、付き合わないほうがいい」  まりえの胸が痛む。  だけどねえ、と祖母は言った。 「初めてだからびっくりしたろうけど、まりちゃんは大丈夫だと思うよ。理解できると思うんだ。そんなお仕事を、陰で支えてあげられるようになるといいねえ」
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