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「おいカクイチ。勘弁してくれよ。何度失敗したら気が済むんだ、……ったく。何やらせても使えねぇやつの相手は疲れる」
専務の武内は吸っていたタバコを灰皿に押しつけ、火を消した。
「すいません」
「すいませんじゃねぇ、申し訳ございませんだろうが。言葉の使い方もわからねぇガキがッ。見ているだけで腹立つわ」
「申し訳ございません!」
「おぅ吉永。コイツ飛ばせ。でないと社長に言い訳も立たねぇ」
「かしこまりました」
吉永はサッと上着とクルマの鍵を取り、振り返った。
「カクイチ、来い」
「は? どちらへ」
「どちらへじゃねぇ。新参者のくせにいちいち口答えするな」
「すいやせん。あ、申し訳ございません!」
吉永はカクイチの直属の上司。入社して以来、住まいや食生活など何かと面倒を見てもらっている一番近しい人。その人に連れられ、これから行くところはどこなのかーー。
この業界で飛ばされるといえば、島か海か。いくらカクイチでも観光旅行でないことはわかっている。うっすらと身の危険を感じていた。
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