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ーー知りたいけど知りたくもねぇッ。ってか、吉永さんと俺の仲じゃないか。どこに連れてくつもりなんだよ、吉永さーん!
前を向く吉永に、カクイチは目ヂカラで訴えた。海に向かうなら夜の海に放りこまれる、山に向かうなら埋められる。専務に『飛ばす』と言われて思いつくのはそれだけだ。
たかが半年。電話の応対くらいで見切りをつけられるなんてことはあるのだろうか。黙ってこのまま連れてかれてなるものかと、妄想に浸るカクイチのメンタルは揺らぎ始めた。
「カクイチ。お前どうして飛ばされると言われたか、わかってるか?」
「そりゃあ仕事ができないからッスよねー」
「それだけじゃねぇ。お前がこの間行ったトツギのばあさん、あれは社長の引っかかりだ。お前にとっちゃ唯一成功した仕事だったけど、知らなかったとはいえ、運が悪かったな」
「へっ? あのばあさんが?」
するとカクイチはサーッと血の気が引いた。それまで保っていたメンタルの針は一気に下降し、もはやエンスト状態になった。
キキキッ、ズキュッ、ギュギュギュッ。
「おい、バッ、何してんだぁ、カクイチッ! 離せッ、やめろッ!」
ネガティブな思いが積もり積もって頭が真っ白になったカクイチは、咄嗟にハンドルを握った。
二人はハンドルを取り合うように強く握りしめ、クルマは右へ左へと蛇行した。吉永は揺れ動く車体の中、カクイチの手をハンドルから引き離しながら小刻みにブレーキを踏む。
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