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【プロローグ】出会い
「残念ですが、このまま治療を継続すると皆月さんの体に負担がかかります。なので、これ以上は出来ません。それに、これだけ副作用の少ない薬で副作用が出るのを考えると、これ以上の治療は無理だと諦めて下さい」
「わかりました」
その日、私の希望は絶望に変わった。私は、お会計を済ませてトボトボと待ち合わせ場所に歩いて行く。
ランチをする店につくと、ニコニコと雪乃が手を振っていた。
「遅かったね」
「ごめんね」
「大丈夫だよ」
雪乃と一緒に席についた瞬間だった。
「私、赤ちゃん出来たの」
「お、めでとう」
「ありがとう」
「よかったね」
私は、パクパクと餌をねだる鯉のように口を動かしていた。そして、雪乃はそんな私を気にすることもなく続けてこう言った。
「治療で、出来たのよー!凛も治療しなよ!私の周りも皆出来てるよ」
「考えてみる」
自分の口から、咄嗟に出た言葉に呆れる。
考えた所で、今さっき病院で無理だと言われたではないか…。
「お待たせしました」
ランチがやってきて、口に運ぶけれど全く味がしない。雪乃を見つめるとまるで色彩がない。黒と白のコントラストで、モノクロの写真みたいだ。
「凛、美味しいね」
「うん、美味しい」
「順調に育って欲しい!高齢出産だからね」
「うん」
「二人は、無理だろうからさー。一人だけでもって思ってたから!やっと、抜け出せるよ。治療地獄から」
「うん」
雪乃の話す声が、どんどん遠くに聞こえて行く。
よかったね、うん、そうだね、って相槌を沢山うった気がする。
二時間後、この苦痛なランチ会がやっと終わった。
「じゃあ、またね」
「うん」
「気をつけてね」
「うん」
雪乃が、いなくなるのを見つめていた。
歩きながら、私はあちら側へは二度と行けないのを知った。
はぁー。心の中で、溜め息を繰り返しながら歩いた。
ドンッ………。
『いったー!!』
ほぼ、同時に声を出していた。
「すみません」
「ごめんなさい」
私は、顔を上げた。
「大丈夫?」
「大丈夫です」
「それなら、よかった」
「そちらも、大丈夫ですか?」
「大丈夫」
「なら、よかったです」
私とその人は、頭を下げて歩き出した。
【はぁー。ついてない。】
心の中で、そう呟いて歩き出した。
何で、こんなのばっかり…
女でいる価値って何?
結婚した意味って何?
わからなくて、泣きそうになる。
幸せそうに笑う雪乃が、目の前で色褪せた時に…。
私は、絶望をより強く感じた。
切望すればする程に、感じる絶望。喉から手が出るほど欲しいその場所に、私はいけない。
治療出来るなら幸せだ!
その治療さえも拒まれ、拒否された私は、スタートラインにすら立てないのだから…。
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