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不思議なものでそういう時って本当にスローモーションになるんだ。
ゆっくりと落ちながらりかの頭の中にいろんなことが次々に浮かんだ。
やっぱりこんなことならさっさとお金を出してもらっていれば良かったかも。
ママは家に帰ってきてあたしが死んでたらどう思うんだろう?悲しむよね。
テンマのバカ!ちょっと言い過ぎただけなのに!
死ぬ前にもう一回パパに会いたかったな。
・・・・・・・・・・・・やだやだ!死にたくない!
バサッ。
音とともに目の前がまっ黒になった。
ぶつかる!
あ、れ?
おそるおそるつぶった目を開けてみると、りかは周りに何もない暗い場所にいた。
左右を見回して次に上から下を見てみると、街の明かりがずーっと下の方に見える。
「え?え?なにこれ!」
「あばれるんじゃない!また落ちるぞ!」
ハッとして声のした方を見ると右手でりかを抱きかかえてるテンマがいた。
背中の羽がゆっくりと羽ばたいている。
「お前がフラっと落ちたりするから驚いてこんなとこまで飛びあがっちまったじゃないか。」
言いながらばつの悪そうな顔をしている。誰のせいだと思ってるの!と、文句の一つも言いたいところだけどまた怒らせて落とされてもたまらないのでりかは何も言わないことにした。
それに文句を言うよりも見たかったのだ。
「きれい。」
空高くから見下ろすミニチュアみたいな町の景色はあそこの内側から見るのとは全くちがってキラキラと輝いていた。
毎日重い足で通う通学路さえも電灯の宝石に飾られている。
「あ、あそこママが働いてるスーパーだ!うちのアパートは上から見てもボロいなあ。あっちにはスカイタワーも見える!うわっ!」
りかが身を乗り出しすぎたのと強い風がビュンと吹いたのでりかとテンマの体がぐらりと揺れた。
「あぶないから動くなっての!今度は助けないぞ!」
「ごめん!だってこんなところから町を見ることなんてないから。」
テンマに空に連れてきてもらえる女の子なんてそうはいない。こんな貴重な体験を楽しまない手はない。
「いいなぁ。テンマは空が飛べるからこんなに綺麗な景色をいつでも見られるんだね。」
わたしにも羽があったら、いつでも空に上がってこの景色を見られるのに。そしたらどんなに寂しい時も不安な時も元気になれるのに!
「こんなのが人間はうらやましいのか?」
いつでも飛べるテンマにはりかがうらやましがる理由がピンとこないらしい。
「じゃあお前の願い事に・・・・」
「空は飛びたいけど羽が生えてると困ることの方が多そうだからいい!」
すかさず願い事をかなえようとするテンマにりかはストップをかけた。背中に羽があったら今持ってる服ぜんぶ使えなくなっちゃうもん。めずらしい人間がいるってテレビ局が取材に来ちゃうかもしれない。
「でも空を飛ぶのはとっても気持ちいい!もう少しここにいたい!」
「ふん。“しあわせ”になるための足しにはなるのか?しょうがない。ずっとここにいたって仕方ないからちょっと飛んで回るか。」
テンマは驚くほど早いスピードで空を飛んだ。軽くスイッと飛んだだけでりかの住んでいる町を飛び越えて、あっという間に山の上までやって来た。
その山で一番高い木にテンマはりかを下ろした。
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