天使になりたい悪魔とかわいそうな女の子

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 「お~いおい!こんなカギ素人でもすぐ開けられちまうぞ!まったく。」  恐ろしさに震えるりかとは真逆の気の抜けた声がカーテンの向こうから家の中に入ってきた。  「子供をひとりで家に置いておくってことの意味を本当にわかってるんだかね?なぁおい。」  その影はにやりと笑ってりかのほうを見た。  大きな口にギザギザの歯。髪はぼさぼさのばさばさで、背中には大きな羽が生えていた。  羽は羽でもそれは鳥の羽みたいにふわっとしてるのじゃなて、コウモリみたいな  黒くてギラギラしている羽。  そう、それはまるでアクマのようないでたちだった。  「ん?なんだ?びっくりして声も出ないのか?おれはな。泥棒じゃない。こう見えてアクマでもない。」    泥棒でもアクマでもない?  りかは男を呆然と見つめた。足はまだ硬直したままだ。  「おれはな。天使だ!おまえをしあわせにしてやりにきた!」    てんし?  こんな格好して?  言うことと見た目とのギャップにりかは思わずプッと笑ってしまった。  すると男は少し慌てた様子で  「いや、まぁあれだ!せ、正確には天使見習いだけど、もうほとんど天使だから天使でいいだろ!」 と手をバタバタさせて言った。 「オレ様は確かに昔はアクマだった。だが200年前に気づいたんだ。アクマより天使の方がずっとかっけーってことにな!それで神さまに頼みに行ったんだ。天使にしてくれって。それからは散々修行の日々だった。それはそれはつらい修行だったんだぜ!お前じゃ絶対逃げ出してるくらいだ。そんでついに少し前に神さまに呼ばれたんだ。天使になるための“さいごのしけん”をするって。」  てんし(?)は聞いてもいないのに自分のことを説明しだした。  りかはあまりにわけのわからない話にただボーゼンとアクマ(?)の顔を見つめていた。  「さいごのしけんっていうのがまたわけわからないんだけど、『かわいそうな人間をしあわせにすること』なんだ。それでオレはここ何日間かずーっといろんな町を回ってかわいそうな人間を探してた。でもよくわかんねぇんだよ、正直。オレ前までアクマだったから、誰かをふしあわせにすることは得意なんだけど、しあわせにするってどうするんだ?  そもそもかわいそうってどんなことだ?? 散々悩んで、ぼーっとそっちの家の屋根に座ってあたりを眺めてたら、お前が帰ってきたんだ。子供のくせに辛気くせぇ顔して帰ってきやがってよ~。家の前で一回止まってニコってわざとらしい笑顔を作って帰って行くじゃねぇか。オレはピンときた!これがかわいそう!ってことだ!」  てんし(?)は得意気な顔でりかの顔を覗き込んだ。  あんまり嬉しそうにりかのことを『かわいそう』と言ってくるものだからりかはムッとした。  「なんで私がかわいそうなのよ!私はかわいそうじゃない!」   パパとママが離婚してかわいそうね。    いろんな人にいっぱい言われた。パパとママが離婚して確かに悲しいけど、私はかわいそうなんかじゃない!パパとママがケンカすることもなくなったし、家にいるときママはいっぱいお話してくれる。離婚する直前誰も喋らなくなった家よりずっと今の家のほうがあったかい。  「だって普通のガキはそんなことしねーだろ。」  アクマ(?)は言った。  「そこらで見かけるガキどもはみんな家に帰る時も、荷物をおいて遊びに行くことを考えてワクワクしてるし、練習しなくたってバカみたいに笑ってる。」  りかはなんて言い返したらいいのかわからなくなった。  言い返せなかった。  ちがうもん。でも私はかわいそうじゃないもん。    「それで、お前はどうしたらしあわせになるんだ?」  突然聞かれてりかはびっくりして言った。 「それって私が考えることなの?」  「お前がこうしてほしいってことを叶えてやるんだ。そうしたらしあわせだろう?」  「ランプのよう精みたいに願いがかなえられるの?」  「オレはてんしだからな!」  りかはじーっとてんし(?)を見た。  「あなた本当に本物?」  せなかの羽をぎゅーっと引っぱってみた。  「イテテテテテ!はなせ!本物に決まってるだろ!こんなカッコイイ人間がいるか?」  アクマは背中の羽をさすりながら少し涙目になって言った。  「確かに羽は本物みたいね。本当に願いを叶えられるのね!ねぇちょっと!あなたのことをなんて呼んだらいい?」  「オレはてんしだって言ってるだろうが!」  「天使になりたいアクマだから・・・・・『テンマ』!あなたのこと今からテンマって呼ぶね!」  「勝手に変な名前で呼ぶな!」   りかはしばらくじーっと考えた。しあわせになれるお願いってなんだろう。
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