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「ねぇテンマ!私、しあわせになる方法考えた」
「!それはなんだ?」
りかが考えている間ひまそうに部屋の中をぐるぐると見てまわっていたテンマが目を見開いてぐっと顔を近づけた。
間近で見るギザギザの歯にちょっとドキドキしながらりかは言った。
「ママのお仕事をなくして!」
近づいた顔をさらに近づけるようにテンマはりかの瞳をじっとのぞき込んだ。
「よしかわった!」
ぱっとはなれて羽を一回バサリと動かしテンマは言った。
「お前の母親が仕事をできないようにしてやる!そのかわりこの家の収入はなくなってすぐメシも食えなくなるけどいいな!」
ニカッ!
その笑顔は今までになく爽やかだった。
やるべきことは決まった!あとはサクッと終わらせて本物の天使になるだけ!
「ちょっと待った!」
りかはあわてて言った。
「なにそれ!」
「ん?なんだ?」
「ごはんが食べられなくなるってなに?」
「仕事をやめるってことは金がもらえなくなるってことだ。当たり前だろ。」
当たり前って言ったら確かにそうだけど、テンマに言われるなんて!
「そんなんじゃ全然しあわせになんかなれないよ!」
「なに!」
「ママは毎日仕事で家にいないくて、帰ってきてもすごく疲れているのがかわいそうだから仕事をしないでいいようにしてほしかったけど、それでお金が無くなってごはん食べられないんじゃ意味ないじゃん!食べられないのはしあわせじゃないもん!」
テンマは少し驚いた顔をしてそのあとがっくりとため息をついた。
「なんだよ~。じゃあどうしたらいいんだ。他には何かないのか?」
「・・・・・そうだ!うちをお金持ちにして!そうしたらごはん食べれるしママも働かなくていいし!」
そうよ!お金があれば問題が解決するじゃない!
われながらナイスアイディア!
「!そんなんでいいのか?よしじゃあお前の母親が金持ちと再婚できるようにしてやろう!」
「待った!」
再びバサリと羽を広げたテンマの羽をぐっと、りかは掴んだ。
「なんで再婚するの?」
「イタイ離せ!だってお前の母親が自分で働かないで金持ちになる方法なんか他にないだろう!」
「そんな・・・そうかもしれないけど・・・・」
新しいお父さんなんて今は考えられない。りかのお父さんは長谷川隆だ。ママとたくさんケンカしたって、パパと一緒にいるとママが笑ってくれなくたって、それでもりかには優しいお父さんだったのだ。
「願い事を叶えるだけなのになんでそんなことになるの?じゃあお金をたくさん出してよ!お金があればいいんだもん!」
「あのなぁ、りか」
テンマは首をふってフッとバカにするように笑った。
「お前は魔法を勘違いしてるぞ。魔法の力っていうのは何もないところから金を出すようなものじゃない。お前の母親が働かないでいるためには代わりに何かをガマンしなけりゃならない。たくさんの金をお前に持ってくるってことは誰かの金を持ってくるってことなんだ。」
「なによ。それじゃどうしたらいいの?どんな願いごとならいいのかわからない!」
そんなことも知らないのか!とバカにされたようでりかはムカムカして言った。
知らない人のお金ならいいじゃない!って心のすみっこで思ったけど、ママがそれをしたら喜ばないことはわかっていた。
「天使になりたいアクマってぜんぜん役に立たないんじゃないの!」
「なにぃ!」
笑っていたテンマのひとみがギラッと暗く光った。
「おいお前。オレは天使にもうすぐなる予定のアクマだぞ。口のきき方に気をつけろよ」
あ、怒ってる。
テンマが低い声で言うと部屋の中の空気がテンマを真ん中にしてうずを巻くようにゴウゴウと動き出した。蛍光灯までチカチカしている。
まずい。言いすぎてしまった。
相手は天使になりたいアクマだ。本気で怒ったら家がなくなってしまうかもしれない。
それにさっきまでの表情と全然違ってこわい。本当のアクマみたいだ。
「あ!」
ビリビリとテンマの怒りを全身に感じながらりかは走った!
テンマの横をすり抜けて窓の外の空に向かって大きな声で叫んだ。
「神さま~!!ここにいる天使になりたいアクマが大人げなく怒ってます!どうにかしてくださ~い!」
テンマはハッと元の表情に戻ってやばいという顔をした。
そして焦ってりかを止めようとした。
「ちょっと待て!」
ドン。
勢いがつきすぎてテンマの体がりかにぶつかってしまった。
「きゃ~!!」
ぐらりと揺れたりかの体はそのままベランダの手すりを乗り越えた。
あたし!殺されるのー!
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