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毎日が灰色だった。
9月になって転校してきた学校に友だちはいない。
最初はめずらしさと、新しい友だちに親切にしようという気もちで話しかけてきてくれた子たちも、りかが気のない返事ばかりで、さそっても全然遊ぼうとしないのでいつからか声をかけてこなくなった。
やさしそうな子たちだったからりかも心のすみっこのほうでむねがチリリと痛んだけど、今はそれどころではなかったのだ。
夏休みに入る少し前。前々から仲があまり良くなかったりかのパパとママはもう一言もしゃべらなくなった。
りかは必死に二人が前みたいににこにこ笑うように、学校で勉強をがんばって100点のテストを見せたり、友だちが学校でやらかしたおかしな失敗の話を聞かせたりしたけど、だめだった。
8月。夏休みの間に、りかの名字は長谷川から深山にかわって、家も駅2つ分となりのこの町に引っ越してきたのだ。
長谷川の時には毎日家にいておいしいお菓子を作ってくれていたママは、毎日毎日りかが学校に行ってる間に働いて、りかが帰ってからまた夜の9時まで働くようになった。
とても疲れているようで、ため息もたくさんつくようになった。
3時20分に帰ってきて、5時半に家を出ていくまでの間にママは夕ご飯を作った。その時間だけが昔の長谷川の時のママのままで、りかは少しでも一緒にいたかったから友だちと遊ぶ時間はなかったのだ。
その日もいつもと同じ。
学校から帰ってほんの少しママとおしゃべりをして、またママを仕事に見送った。
季節は秋から冬へと変わっている途中で、日も短くなって夜は寒さも感じるようになってきた。でもエアコンはつけない。
ママのために“せつやく”するんだ。
お手伝いもまだほとんどできなくて、りかができることは少しでも“せつやく”することだった。“せつやく”の意味が本当はよくわかっていなくても。
ガタガタガタ。
風の音が窓をゆらした。
なんでもない音にりかはビクッと不安げに窓を見た。
こんな日は嫌だな。
風の強い日。雷の日。
突然大きな音がする日はいつもは気にならないことが気になってしまう。
怖いと思った瞬間にどうしてもママの姿を探してしまう。
一人でいるときにどろぼうが入ってきたらどうしよう。
雷が落ちてきたらどうしよう。
でもそういう時りかは自分の気持ちにしっかりとフタをする。
だいじょうぶ。そんなことは起こらない。
ママはすぐに帰ってくる。
そうやって何回も自分に言い聞かせていると気持ちも落ちついてくるのだ。
ここ1か月半の間にこのフタのあつかいはだいぶ上手になってきた。
でもどんなにうまくなってもどうにもならない時がある。
どんな時って?
それは本当に“何か”が起こった時だ!
ガタガタという音にりかが2回目に顔を上げた時のことだ。
窓の外に黑い影が見えた。
目をこすってフタを何度もしめ直してもその影はなくならない。
「え?え?」
なに?
なにがおきたの?
りかの家はオンボロアパートの2階だった。
窓の向こうはベランダで、通りすぎる人の影が映るはずはない。
さっき見たときにはなかった影がそこにはあった。
「・・・・・ど、どろぼう!」
逃げなきゃ!逃げなきゃ!
頭の中では危険を知らせる鐘の音がガンガン鳴り響いてる。
でもりかの足はぜんぜん動かなかった。
早く!
玄関のカギを開けて外に出て誰かに助けてって言わなくちゃ!
ママ!ママ!
窓の外の影は少しもぞもぞっと動いたと思ったら、窓のかぎがカチャンと開く音がした。
逃げ・・・・なきゃ・・・・
あまりのおそろしさにいつの間にか目に涙がにじんでいた。
その時、ふわりと風が家の中に舞い込んだ。
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