泥棒を しては いけません

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 深夜、郊外のとある一軒家の中。  泥棒は、リビングにいた。あかりはついていない。あたりはしんと静まり返っている。  テーブルの上には、平たい皿が三つ置かれている。  それぞれの皿の上には一品ずつの料理が載っていた。泥棒の夜目に、ほかほかと立つ湯気が見える。  泥棒は、そのうちの一つ――一番手前にあった皿の料理に、手を使わず、口を近づけて直接かぶりついた。  なにかの野菜の煮込みらしいそれを、かみちぎり、咀嚼して、飲み込む。  そして、ぐえ、と汚い声を漏らした。 「ま、まずッ……」  しかし、さらに二口めをかぶりつく。 「ぐうう、まず……まずいッ……」  三度、四度。  まずいまずいと言いながら、泥棒は奇妙な食事を進めていった。 ■  泥棒は以前にも、この家に入ったことがあった。  少し調べたところでは、ここは四人家族で、一家の主は評判のいい料理人らしい。  家は一般家庭にしては大きめで、それなりの小金を貯めこんでいそうに見えた。周りには家もなく、入り込みやすそうだ。  しかしさほど期待していなかった予想に反して、奥の部屋にあった金庫――腕のいい泥棒は簡単にダイヤル錠を破った――には、目もくらむような大金が詰め込まれていた。  それを、泥棒は残さずいただいた。  そして半年後。  深夜に再び訪れたこの家のセキュリティは、特に強化されることもなく、以前のままだった。  間抜けな奴だ、と泥棒は小躍りした。  さすがに前回ほどとはいかないまでも、なんらかの収穫があればいい。  そう思って容易に侵入した泥棒は、玄関を過ぎたあたりで、妙な胸騒ぎを覚えた。  なにかおかしい。  しかし引き返そうと思う前に、突然白い気体が泥棒を覆った。  意識が途切れ、気がつくと、両足を縛られ、後ろ手に手錠をされた状態で、暗いリビングのテーブルにつかされていた。  腹のあたりで椅子の背もたれにロープでくくりつけられており、その椅子は床に固定されているようだった。立ち上がることもできない。 「食え」  その声の主は、高校生くらいの少年だった。  泥棒の傍らに立ち、冷たい目で、机上の皿と泥棒を見下ろしていた。 ■
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