12月1日

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12月1日

 もう師走か。そう思って歩いていると雪が降ってきた。空からふわふわと落ちてきた雪は、地面で人には聞こえない音楽を奏でて降り積もる。  最初は光が通るほど薄く降り積もっていたが、次第に少し歩くのに苦労する位まで高くなったのだから、自然の力というのは凄いものだ。  しかし、こうしている訳にもいかない。雪はどんどん降り積もる。そしてその降り方も激しくなっていくのだ。雪がこつんこつんと、セーターに当たっては潰れる。  雪というのはなんと脆弱なものだろう。だがだんだん寒くなってきたし、当たった雪が溶けて水になって服に浸透するのが冷たくて厭だった。  僕は暖を取ろうと、急いで近くの店に駆け込んだ。  その店は、古書店だった。暖房が効いていて、冬であることを忘れてしまうほどに暖かかった。天井に取り付けられた数数の照明は、それぞれ橙色に光っていた。しかし、ボウ、と哀しげに光っていたので、その、可憐に、それと同時に必死に大して明るいとはいえない室内に光を灯そうとしている照明は、店全体にノスタルジックな雰囲気を漂わせていた。  僕はただ暖を取るためだけに店に入って、かつ本も読まないというのは気まずかったので、取り敢えず、近くの本棚の端にしまってあった本を手に取った。  その本は、真新しい本だった。古書店には相応しくない綺麗さだった。いや、それは珍しいことではないのかも知れなかった。だって、そのときが僕が一番最初に古書店に入ったときだったから。  僕には古書店についての知識がないのだ。  その本の表紙にはキセルをふかす、雪だるまの絵が書いてあって、僕はそのなんともいえない愉快さに思わず笑みをこぼした。それから僕は本の頁をめくった。最初の頁には、表紙の写真と本の題名である『雪の本の泥棒』と書かれてあった。頁をめくると、見開きになっていて、「貴方が主人公です」と殴り書きされていた。  次の頁には、何も書かれていなかった。それどころか、4頁目から一切文字という文字が書かれていなかったのだ。本当に真っ白だった。  僕は呆れて本を閉じた。怒りすら覚えた。それから本棚に戻そうとしたが、なぜあの本は真っ白なのか、それが気がかりで戻すのを躊躇った。そしてもしかしたらあの本には何かの秘密が隠されているのではないかと思いを巡らせた。  そうこうしているうちに、一人の客が僕のことを怪しいと思ったのか歩み寄って来て、「どうなされたのですか」と声を掛けてきた。僕は自分だけの秘密が暴露されてしまうような気がして急に恐ろしくなった。  僕はその人からゆっくりと離れると、急いで本を買った。そのとき焦って小銭を落としてしまったことを今でもよく覚えている。それから僕はそそくさと店を出た。  僕は秘密がばれなかったことに安堵を覚えた。  外は、依然として雪が降っていた。前より少しばかり強くなっていたが、僕は気にも留めなかった。
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