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1.みなととなぎさ
僕は椅子取りゲームが嫌いだった。
我先にと座る場所を奪い合い、どこにも居場所がなくなった僕は、ぽつんとひとり輪の外へ。みんなは勝ち取った椅子にふんぞり返り、所在なく佇む僕をニヤニヤと眺める。
あの時感じた言い知れぬ不安。疎外感。
それがもうずっと、僕の心の中にある。
思春期なんてそういうものだ、と横川渚沙が言っていた。部活に、クラスに、仲良しグループに所属したい。帰属意識は安定感。みんなが居場所を求めてる。けれど、僕みたいにどこにも属することができない不適合者は、ずっと後ろ指を差されながら立ち尽くすしかないのかもしれない。
***
僕が横川を意識するようになったのは、ある日の寄り道がきっかけだった。
毎日毎日、放課後になると予定もなく直帰する僕。早い時間の帰り道には他に歩いている生徒もいなくて、それがすごく寂しかった。寄り道をしたのは、そんな寂しさに言い訳をするためだった。
坂道を下ると、そこには延々二キロは続く堤防がある。真下は平らな岩場になっていて、夏になると磯遊びをする子どもで賑わった。泳ぐにはまだ少し早い六月の今日、海で遊ぶ人影はない。
堤防にひとりの少女が座っていた。僕と同じ高校の制服。長い髪に混じり、紺色のセーラー襟が潮風に靡いていた。
女が髪を掻き上げたことで横顔が見えた。クラスメイトの横川渚沙だと気付く。これと言って話す間柄でもなかったけれど、一緒に当番をしたことがあったので、互いに存在だけは認知していた。
彼女は僕に気付くと猫のような吊り目でじっと見つめてきた。
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