第五部 始まりの旅、紡がれる絆

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第五部 始まりの旅、紡がれる絆

【発見】  僕が同じ名を持つショーンおじさんに会ったのは、とても小さかった頃だった。出会った時のことはあんまり良く覚えていない。ただ、父さんも母さんも、サクラおばさんも、ダイチさんとかみんなが喜んでいたことだけは心に残ってた。  同じ名前だと呼ばれた時に区別が付かないので、みんなからは『リトル・ショーン』と呼ばれていた。ただ長いので『リト』と略されることが多かったけど。  僕は今、何をしているのかと言うと、集落の近くにあるジャンク山で、使えそうなジャンクを拾い集めていた。でもここには良い状態のジャンクはあまり残っていない。父さんが子供の頃にはほとんど取り尽くされちゃったそうだ。  目星(めぼし)をつけた瓦礫(がれき)の山の隙間に手を伸ばして見るんだけど、(つか)んだ基板はボロボロに劣化していた。割れた破片の一部だけが手元に残り、イラッとした僕はそれを背後に放り投げた。 「ちょっ……兄貴! 危ないじゃないの!」  レイホンが僕の背後で(わめ)く。でも僕にはここで大声を出す方がどうかしてると思った。 「大きな声を出すなよ。ドローンが来ちゃうだろ」 「刺さって怪我でもしたらどうすんのよ」 「お前は僕と違って頑丈だから平気だろ」  レイは母さんの言いつけを守って幼馴染(おさななじ)みのサツキと拳法の修練に励んでいる。僕にはその良さがわからない。小さい頃、母さんが熱心に僕に稽古(けいこ)をつけていたんだが、僕は仕方なしに付き合ってあげていた。その内、母さんは僕にやる気がないのに気づいて『ウェン並に教え甲斐(がい)がない!』ってぷんぷん怒って僕への修練をやっと(あきら)めてくれた。  僕にはウェン叔父(おじ)さんの気持ちの方がわかるんだけどな。  どっちかって言えば、父さんの仕事のひとつであるジャンクの再生や修復の方が興味深いし、端末でコードを書いてる方が楽しい。  それと、ショーンおじさんから教えてもらう射撃の技の方が断然面白くて、奥が深いと思っている。  最近、父さんとウェン叔父さんは『システム』というこの世界を掌握(しょうあく)している存在の調査のため、行商団の仕事を僕やレイ、ダイチさんやランディに任せることが多くなっていた。『システム』をどうにかできれば、僕らがドローンに(おび)えずに済む日が来る……とか、そんなに単純なことじゃないのかも知れないけど、僕も早くその手伝いができるようになりたいと思っている。 「あのねえ……」  しゃがみ込む僕の背後で、レイがぷりぷり怒っている様子が目に浮かぶ。最近、何だか母さんに良く似て来ていて、怒り方が一緒なんだ。こう言う時、どうするかは僕だって心得ている。そうだ。(いさぎよ)く、すぐに謝罪。仕方なく後ろへ振り返ってレイに謝った。 「レイ、ごめんごめん」  父さんも言っていたけど、そろそろジャンク山での廃品回収も潮時(しおどき)なのかもな。長い時間探し回っても、あまり状態の良いものが見つからない。そんなことをぼんやりと考えていると、レイがまた怒り出した。 「謝る気持ちがこもってない!」  だから大声は止めろって。賊徒(ぞくと)が近づいて来る可能性だってあるんだぞ……。でも、僕は言いたいことを全部を飲み込んで再び謝る。 「ごめんなさい。以後気をつけます」  レイが、ふん、と鼻を鳴らす。  その態度も大概(たいがい)だろうと思うが、僕はそれには触れないでおく。口煩(くちうるさ)い妹より、どうせならサツキかランディと組みたかった。()はまだ高いけど、荷物袋はスカスカで、僕のやる気もスカスカに失われて()えていた。 「なあレイ、そろそろお(しま)いにして集落へ戻ろうか。水もあんまり残ってないし。このまま探していても良いものを見つけられる気がしない」  レイもそう思っていたのだろうか。あっさり僕の提案に乗って来た。 「そうね、兄貴の言う通りかも。ここは暑過ぎて嫌になっちゃう」  しゃがみ込んでいた姿勢でずっといたので腰が痛くなり、僕は立ち上がって背を()らす。その目の(はし)に、光るものが飛び込んで来た。僕はそれが何なのか気になって、ジャンクの積み上がった隙間を(のぞ)き込んで見る。太陽光の反射でキラッと光る何かに気がついた。 「レイ、ちょっと待って。残骸の奥に気になるものを見つけた」  隙間に手を入れて、光った何かを掴もうとしたが中々届かない。もう少し……瓦礫が肩に押し当たって痛むが、構わず手を伸ばして行く。指先に触れると光った何かが弾けて隙間に落ちて見えなくなった。僕が落胆(らくたん)のため息を()く間もなく、残骸の奥の方からギシギシと(きし)む音が鳴り出した。 「あっ、兄貴、早く離れて! 崩れそう!」  レイの警告に、身の危険を感じて手を抜こうとしたが残骸の重みで二の腕の辺りに圧力がかかっていて上手く抜けない。  焦りに(もが)いていると急に腕への圧力がなくなり、腕は抜けたが僕は勢いで後ろへ転がって行った。 「ああっ!」  レイの悲鳴と共に残骸の山がガラガラと音を立てて崩れて行く。危なかった。  腕が抜けていなかったら僕は飲まれて残骸の一部と化していただろう……。  地べたに尻もちをつく形で、ふう、っと息を()き、崩れた残骸の跡を見る。残骸の山の一角が大きく崩れ落ちていて、何かの機械のような姿の一部が(のぞ)いていた。 「あれって……」  レイはまたぷりぷりと怒っていた。 「もう、危ないじゃない! 怪我でもしたらどうする気だったの?」  全く、母さんとおんなじことを言うし……そんなことより、レイは気づかないのだろうか?  僕の目は、瓦礫の中から覗く、その姿に釘付けになっていた。 「レイ、あれを見てみろ」  僕が指差す先にあるものを見て、レイも息を飲んだ。  ほぼ形を保ったクルマが、そこに()った。
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