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そう思っていたのに、翌日・・・
「木葉とそういうことをしないでもらいたい。」
紅葉がいない社長室で山ノ内先輩から言われた。
それには笑ってしまった・・・。
俺はまだ自分が“彼氏”なのだと思っていた。
別れ話もしていない。
だから・・・そういうことをしていた。
“彼氏”なんだから“彼女”である紅葉とそういうことはするだろう・・・。
でも・・・
「もうしねーよ・・・。」
目の前にいる良い男に言った。
権力も兼ね備えてきたはずなのに“極上に良い男”ではないように見える山ノ内先輩にそう言ってやった。
そしたら山ノ内先輩は安心したような顔で笑い・・・
「あと、俺のことは山ノ内社長、木葉さんのことも木葉社長って社内では呼ぶようにね。」
そんなことを言ってきた・・・。
長年“紅葉”と呼び続けてきた俺に山ノ内先輩が・・・紅葉の“彼氏”でもある山ノ内社長がそんなことを言ってきた・・・。
そして、気付いた・・・。
やっと気付いた・・・。
俺はずっと紅葉から“天野”と呼ばれていたことに。
あのダサイ“父親”と違う名字になれたことが嬉しくて、“天野”という名字も気に入っていた。
だから紅葉から“天野”と呼ばれていることは好きだった。
俺はあの“父親”とは違うのだと実感出来たから。
でも、やっと気付いた・・・。
“普通”は“彼氏”のことを名字で呼ばないと。
やっと分かってしまった・・・。
知りたくなかった事実が分かってしまった・・・。
俺は“紅葉”の“彼氏”でも何でもなくて・・・。
俺達はきょうだいでしかなくて・・・。
“好き”とも“付き合おう”とも“彼氏”とも“彼女”とも言ったことはなかった。
“夫婦”だと言われていた・・・。
俺達は“夫婦”だと言われていた・・・。
赤ちゃんの頃の明を連れていた頃から、アヤメの下の子達を連れていた時も、俺達は“夫婦”と言われていた・・・。
俺も同じだったとやっと分かった。
あのダサイ“父親”と同じことをしていたとやっと分かった。
“家族ごっこ”をしていた・・・。
紅葉は本物の“彼女”でも“嫁さん”でもないのに、そんな紅葉と俺は“家族ごっこ”をしてしまっていた。
俺もあのダサイ男と同じだった。
母ちゃんを捨てた“しょうもない男”と同じだった。
それは捨てられる・・・。
俺と身体だけの関係ですらいられないくらいに捨てられる・・・。
今の紅葉には、こんなに良い男が隣にいるのだから・・・。
ダサくてしょうもない男である俺なんて捨てられてしまうのは当然だった・・・。
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