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「社長、紅葉が1人になったんだって?
お客様から聞いたよ。」
「うん、山ノ内社長に捨てられたの。」
「あの良い男ね~・・・。
あの男は良い男だよね~・・・。」
会社を立ち上げる時に山ノ内社長が1度我が家に来てくれ、“ママ”に挨拶をしてくれていた。
“ママ”は山ノ内社長を一目見た時からすっかりファンになっている。
「もういなくなっちゃったから会えなくなってごめんね。」
「この前店で会ったよ?」
「店って?」
「うちのクラブ。」
「・・・山ノ内社長って、接待でも夜の店に行かない人だったけど。」
「そうなの?夜の店が大好きな子じゃない?」
「まさか~!!」
私が大笑いしていると、“ママ”が意味深な顔で笑ってきた。
「夜の店っていうより夜の女が大好きな子だね。
だから紅葉にも協力したんでしょ。」
「私がホステスやってること最初の頃は言ってなかったよ?」
「何となく感じたでしょ、あの子なら。
夜の女が大好き過ぎる子なんだから。」
「・・・山ノ内社長ってそんな感じなの?
それは結構ショックなんだけど。」
私がショックを受けていると“ママ”が・・・お母さんが大笑いをしていた。
「お店は最近大丈夫なの?
“アヤメ”が抜けてからNo.1不在になってない?
No.2だったあの子ってバイトの掛け持ちでしょ?
同じ歳だったから大学生の頃は一緒にバイトしてたけど、毎日入れてなかったし。」
「それでも充分過ぎるほど良い夜の女だから問題ない。
でも・・・妊娠して出産したら、復帰までの間は少し不安でもあるね。」
「子ども出来てからも夜の店に復帰するかな?」
私が聞くと“ママ”は得意気な顔で私を見てきた。
「夜の時間にも生きている人間がいるの。
だからあの街は夜でも明かりは消えない。
あの明かりを求めているのはそこに立ち止まる人達だけではない。
夜の時間にも生きようとしている人間もあの明かりを求めている。」
「“お母さん”もそうだった?」
「あの夜の時間がなければ、あの男に捨てられた後に我が家は生活が出来なかった。
あの街の明かりは救いの光でもあった。」
“お母さん”がそう言ってから悲しそうな顔で私を見た。
「子ども達には1日中、“お母さん”を不在にさせてしまったけどね。」
「でも、うちはきょうだいが沢山いたから。
それに天野のお母さんも学校から帰るといてくれたし。」
私が笑いながら答えた時、部屋の扉が開いた音が聞こえた。
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