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#6
息苦しい日が続いていたある日、僕がいつものように家にいると、玄関のチャイムが鳴った。
平日の昼間なので、家族はみんな出払っていて、僕が対応するしかなかった。居留守を使うことも考えたが、どっちにしても後ろめたい気持ちになるなら出た方がいいだろうと思った。少しの時間ならマスクはなんとかつけられるから、玄関に置いていたマスクをつけて僕は戸を開けた。
立っていたのは、ヒロさんだった。お店でいつも来ていた黒いTシャツに紺色のジーンズに加えて、顔には不織布の白いマスクをつけていた。
「しばらくだな、元気か?」
と僕に聞くヒロさんの髪は以前にも増して白髪が目立っていて、心なしか体も小さくなったように感じた。店をやめてからヒロさんと会うことはなかったから、ヒロさんやお店がその後どうなっているのか僕は何も知らなかった。
ただ母からコロナ禍で「ちゃんぽん」も経営が厳しいとは聞いていたので、こうして久しぶりにヒロさんに会うのはなんだか気まずかった。
「お久しぶりです。えっと、まあまあです」
無職の自分の姿を見られるのが恥ずかしかった僕は、ヒロさんの目をまともに見られなかった。しばらく沈黙が下りて、玄関を冬の風が吹き抜ける。僕は思い切って「お店の方はどうですか」とヒロさんに尋ねた。
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