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久々のお茶会の際、ウラリーはアルフレッドを見て悲鳴を上げた。
「アル! どうしたのその怪我!?」
「……任務中にちょっと」
足に包帯を巻き、腕を吊ってきたのだ。
「腕……誰かに刺されたの?」
「いや。眠気覚ましに自分の腕を刺したんだが……」
「大丈夫!? 腕動く!?」
「そんな自分の腕が使えなくなる場所は刺さない」
「よかったぁ……」
ウラリーにべそべそと泣かれたとき、アルフレッドは少しだけほっとした。
(よかった。彼女は本当に自分のことを嫌いではないらしい)
幼いし訳もわからず婚約をしていたのなら、早いところ解放しようと思っていたが、どうやらその必要はなさそうだ。
怪盗ラ・マジに薬を盛られて眠ってしまったなんて大惨事は、彼女には知られなくてもいい。
「ところでウラリー。婚約は」
「白紙は嫌よ? 私、あなた以外と婚約なんてしないから!」
「……いや、続けましょう。ただ、今追っている案件があるので、それが終わってからでもかまいませんか?」
「……なんの案件?」
「泥棒退治です」
アルフレッドがにっこりと笑うと、なぜかウラリーが泣き出してしまったので、アルフレッドは困り果てた。
年の離れている子の考えることは、よくわからない。
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「おじいさまの馬鹿ぁ、私もうアルのところに嫁ぎたい!」
家に帰ってから、またしてもウラリーは泣いた。
大好きな彼を怪我させる気なんて毛頭なかったが、安眠薬に抵抗しようとして、脚だけでなく腕まで刺すなんてありなのか。
それに祖父と父は顔を見合わせた。
「まあ……鏡のせいでおかしな物言いになってしまったブランシュ夫人が元に戻ってよかったね」
「あれは鏡に精霊を入れて占術に利用するものだったのが、入れっぱなしの精霊に乗っ取られてしまっていたからねえ」
気位の高い精霊が、自分より美しい人間を認める訳がなく、結果として夫人の体を使って義娘のエメを虐待しはじめた。
だから安眠薬で肉体を眠らせ、体が動かなくなった精霊が夫人の体から抜け出したタイミングで鏡に封印しなければならなかったのだ。
鏡に精霊を封印しなおさなければ、夫人は完全に乗っ取られてしまい、可愛がっていた義娘を虐待死させかねなかった。
これでブランシュ邸の一件は終わったのだが。
「……アル、私を逮捕してから、私と式を挙げたいんですって。どうすればいいの?」
「婚約が破談にならなくってよかったじゃないか」
「よくない! ちっともよくない!」
「捕まる前に魔道具を全部回収して封印すれば済む話だよ」
恋する娘のデリケートさは、なかなか伝わらない。
ウラリーは「あーん、アルー!」と嘆いていても、魔道具の回収は終わらないのだった。
<了>
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