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青栗ヶ丘のお屋敷
青栗ヶ丘のお屋敷は、その名の通り丘の上にありました。
広大な敷地には、奥も見えないほどの栗の木が植えられており、そのまんなかを、苔むしたレンガ造りの道がうねうねと曲がりながら続いておりました。道の幅は、ちょうど自動車が一台通れるくらい。
道の先がどうなっているのか、薄暗くて見通せぬほどでした。
わたくしがここを初めて訪れたのは、夏だったか、秋の初めだったか。
道の脇にときどき青い栗の実が落ちていて、その鋭利ないががちょっと薄気味悪かったのを思い出します。
道をひたすら進むと急に開けて、目の前には立派な洋館が建っていました。
青い瓦屋根は形が複雑で変わっていて、細長く切り取られた無数の窓、わたくしの背丈の二倍はありそうな重厚な扉、どこをとってもハイカラでとても洒落ていました。
わたくしは女学校を中退し、十七になったばかりでした。父を亡くしたばかりで身寄りのなくなったわたくしは、このお屋敷の女中として働くべく、ここまでやってきたのでした。
「語学堪能な女中、求む」の広告に、自尊感情がちょっとばかりくすぐられたのです。
わたくしが話せるのは英語とフランス語だけでしたが、これでも女学校では優等生でやってきたのです。学校を辞めざるを得なかった、落ちぶれ者のせめてものプライドでした。
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