不貞の果てに

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不貞の果てに

とにかくその夜、わたくしたちは背徳の地獄に堕ちたのです。ああ、なんと地獄は甘美だったことでしょう。 そんな夜を毎日のように続けて、そこには当然の結果が待っていました。子供ができたのです。 奥様は、わたくしが妊娠したことにまるで気づいておられないようでした。わたくしたちの関係についても、それは同じでした。 ただ旦那様は違います。つわりで苦しんでいるわたくしに、良くなるくすりだからと言って錠剤を渡してきました。飲んだら子供が下りてしまうと思ったわたくしは、飲んだふりをして捨てました。 料理人はもう少し親切でした。精のつく妙薬だと言って、裏から鶏を一羽連れてきて、キッチンで首を刎ねると生き血を鍋に注ぎました。 首を切られた鶏は、料理人の手のなかでしばらくばたついておりましたが、そのうち静かになりました。 「旦那様のホットワインにも、この血を入れているんですよ」 そう言って料理人は、搾り取られた鶏の血を、グラスに注いでくれました。 さっき見たばかりの光景も相まって、鶏の血はぬめぬめして生ぬるくて気持ちが悪いと思いましたが、一気にぐいっと飲み干しました。 「若返りの妙薬でもあるんですよ。だいじょうぶ。奥様なんか、ほっぽり出しておやりなさい」 料理人はわたくしの肩を叩きました。
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