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事件
初めのうちこそ、奥様に知られないようにひた隠しに隠していたのですが、だんだん大胆になってきて、おんぶ紐で赤ん坊を背負いながら給仕をしたりするようになりました。
そうしていても、奥様は一向に気づく気配がありません。
あまりにもひとのことに関心がないのか、わたくしと旦那様は陰で笑いました。料理人も小作人も、運転手も掃除夫も、わたくしが危なっかしいことをやってのけるたびに、陰で笑いました。
奥様がこの家のなかで愛されていないのは、火を見るよりも明らかでした。そんななかで、事件が起こったのです。
ある朝、わたくしが支度をして二階の部屋を出て行きますと、廻り階段の踊り場で、奥様が倒れておりました。発見したのはわたくしでした。
奥様は血を一滴も流しておらず、首がおかしなほうに曲がっていて、その顔はまるでミイラのように干からびていました。
わたくしの叫び声を聞いて、家人がつぎつぎ現れました。奥様は誰に対しても、感じ悪く振舞っていましたから、誰に殺されてもおかしくはありませんでした。
けれど、ミイラのようなあの顔……。人間の技とは到底思えませんでした。
「片づけてしまいましょう。この家の奥様には、あなたがなればいい」
小作人が言いました。旦那様のほうを見ると、わたくしに頷いてみせました。
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