麦わらの温もり

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一言で言ってしまえば、窓に反射するような一夜の為に生まれた私になりたかった。 夜景が、サラサラの砂金の花火の如く、散っている。 しかし、どう頑張っても、に目の標準が合う。 私は夜に、赤いイスと共にゴトン、ゴトンと沈む。 月は遥かに小さく見えて、電車内の電灯が沁みる。 少し窓を開けたら、弟の小さい麦わら帽子が飛んでなくなってしまいそう。 そんな弟は、疲れきった顔を見せ、全体重をかけるように私に寄りかかりながら、深い呼吸で眠っている。 弟の髪の毛はサラサラだ。そんな髪をポンポンと優しく起こさないように撫でながら、私は、外に視線を向ける。 すると、ずり落ちた弟の軽い頭が私の膝に滑り落ちた。 それでも、起きない。 膝が温かい。外を眺める。 ───そこには、窓に反射した優しそうな見知った私の顔。 弟という存在があるからこその私のような気がして、夜景そっちのけで私をじっと見つめる。 (はた)から見れば外を見ているように見えるだろう。 膝に乗っている小さな命がなかったら、私の意味は何なのだろうか。 ───考えてしまった。到着まで、あと余裕で一時間はあるからだろう。 電車に乗る私は、それから五分か、十分か、分からないが、眠りについてしまった。 ───ゴトン、ゴトン 最終駅に着いたはいいものの、到着したことにすら姉弟揃って感じず、結局、若い駅員さんに起こされることになった。 お礼を言い、焦って降り、外の空気を感じた瞬間、私が私のような気がして、たまらなく、たまらなくなった。
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