ようこそハロウィンの夜へ

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 全日本高校生演劇大会、六位。三位以内にさえ残れなかったことに衝撃が走った。優勝校として有名だったというのに。  今年の演劇部はレベルが低すぎる、周囲からそう言われてきていた。理由はヒロインに抜擢されている女の演技が大根役者すぎるからだ。セリフは棒読み、全く感情移入ができない、幼稚園のお遊戯会レベル、そんな意見が多かった。  これだけ酷評されていても演劇部から追い出すことができないのは、彼女の実家がそれなりに権力があるからだ。彼女に何かあれば家が学校に猛抗議に来る。演劇に気合を入れていた担当教師も、呆れ果てて今年は演劇部の顧問を辞退してしまった。この女が卒業したらまた気合入れて指導しますから、と言った話は学校内で瞬く間に噂として広がっている。  当の本人、舞花はその噂を耳にする機会も多く最近ずっと機嫌が悪い。もちろん自分のせいで優勝できなかったなど思っておらず、他の奴の演技が下手だからと言い張っている。  最近は練習にも来ないで彼氏である彰と一緒にカフェに行ったり買い物に行ったりしているらしい。舞花を外に追い出している方が非常にスムーズに練習が進むので放っておいている。 「なんでアレと付き合ってるわけ?」  私と彰は幼馴染だ。舞花がいない時に聞いてみたら、彰はあははと笑っていた。 「人から見ると我儘、自己中、性格悪い女だって言われてるけど。二人きりになると結構かわいいんだよ」  その場にいた部長からは可愛い彼女がいていいな、なんて言われて笑ってたけど絶対嘘だと思った。舞花がまだ演劇部に来る前、彰は本当に楽しそうに部活に来ていた。でも舞花からゴリ押しのアプローチをされて付き合うことになってから、笑顔はどこが空々しい。  いずれにせよ二人が付き合っている以上は……私の初恋も実らないことが確定している。女子力がなく淡々としていて喜怒哀楽がないんじゃないかと言われている私だけど。一応恋心はあったし、それなりに傷ついてもいる。  でもそんなの感じさせない位私は周りを騙す自信があった。演技力は一、二を争うくらい高いという自負もある。
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