化け狸の呪い

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「まだ分からないのか」 「いや、その、」 「もういい。ついて来い」 「え? あっ」  課長は怒ったように私の横を通りすぎて廊下に出た。  小走りでついて行き、階段を降りていく。  会議室が並ぶフロアの一角に辿り着くと課長は扉を開けた。  マジっすか。入社早々いかがわしい系? いやいやそんなはずがない。  この流れは確実に説教だ。なんせ人をお前呼ばわりするパワハラ上司だもん。  意気消沈しながら部屋に入るとそこにはいくつものドレッサーが並んでいた。 「ここは新商品などを試す特別室だ。美容部員への教育用としても使われている。ドレッサーが並んでいるのは珍しいかもしれないが、社長のこだわりだ」  まるでお姫様のお家に遊びに来たかのような雰囲気。可愛くあしらわれたドレッサーはどれもキラキラしている。 「座れ」  課長が一番近くにあるドレッサーの椅子を引いた。  勢いに押され、渋々席に座り鏡を覗き込むが、ここにあるのは魔法の鏡でもなんでもなく普通の鏡。目の前には二つ結びをした眼鏡女子がいた。  咄嗟に下を向いてテーブルの綺麗さに感動するフリをする。  そんな私に課長は鏡越しに話しかける。 「人は見た目じゃないなんて言う人もいるが、人の印象なんて半分以上が見た目で判断される。そして、自分の意識すら見た目に大きく左右されてしまう」  課長はドレッサーの引き出しから次々にコスメを取り出していく。 「理想は素のままを愛せて愛される世の中になることだが、現実問題なかなかそうはいかない」  手元でコットンにクレンジングをしみ込ませると課長は「触れてもいいか?」と尋ねて私の眼鏡を取り、肌に触れた。
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