2382人が本棚に入れています
本棚に追加
コスメはドラックストアの安価な物しか買ったことが無いので人に施されるのは初めてだ。
女性にされても緊張しそうなのに、課長にされていると思うとそこに変な意図が無いと分かっていても鼓動が早くなる。
「何も化けろとは言わん。だが、自分の顔を堂々と見られるようになれ」
課長は分かっているのだろうか。私が自分の顔を見られないという事を。
「自分を好きになれる道具としてメイクを使えばいい」
課長はそう言って口を閉ざし、丁寧に産毛の処理から眉毛のお手入れまでフルコースでやってくれた。
私は終始目をつぶり、今触れているのはメイドさんだと思うようにした。
フリフリのメイド服を着たショートヘアのメイド……。
どうしても課長の顔が浮かんでしまう。
私は何を妄想しているんだ。でもでも、課長は女装させても申し分ない顔立ちだ。もしかして実際に女装とかしちゃったりして?
なんて想像しているうちにメイクの大半が終了していたようだ。
「目を開けてくれ」
課長は瞼を必死で釣り上げてビューラーでまつげを挟もうとしているが上手くいかないらしい。
私は少しだけ目を開けて目ん玉を上に向ける。
「お前は芸人か? 普通に開けろ普通に」
「開けてますよ」
「白目妖怪にしか見えんぞ」
「白目妖怪であります」
渾身のノリは極寒の地に連れて行かれたかのように不発に終わった。
最初のコメントを投稿しよう!