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頑なに白目を止めないので諦めたのか課長はそのままメイクを続けた。
メイクだけかと思いきや二つ結びをとかれ、何やらヘアセットまでしている。
化粧品会社の御曹司はこういうのが好きなのかもしれない。
「できた。目を開けろ」
鏡を見るように促されるが、鏡を見ずに隣にいた課長を見上げた。
「ありがとうございます」
「明日から自分でやってもらうから今から言う事をよく聞け」
頑なにドレッサーの鏡を見ない私に業を煮やしたのか、課長は私を後ろから抱きかかえるかのように手を回し、手鏡を私の方に向け説明を始めた。
「まず重要なのは——。おい、どうした?」
どれくらい経っただろうか、気が付くと目の前にいる人の目から止めどなく涙が溢れていた。
「おい、どうしたんだ」
目の前から泣いている人の顔が消え、代わりに課長の顔が現れた。
「大丈夫か? 何故泣いている」
「あれ? なんでだろう。すみません」
指で涙を拭いながら謝る。
「せっかくメイクしてくださったのに申し訳ありません」
「直せばいいだけだ。気にするな」
課長はドレッサーに広げたままのメイク道具で崩れている箇所を直してくれた。
「綺麗に直したぞ。見るか?」
私は横に首を振る。
「何故見ない」
「すみません」
「鏡を見ないと要点が分からないだろう」
「すみません」
「すみません、すみませんって……」
課長はため息をつきながら頭を抱えていた。
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