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プロローグ
祖母に呼び出されたのは政府御用達の料亭。誰にも聞かれたくない秘密の話かと思いきや、手渡されのは1枚の履歴書。
綺麗な文字で書かれているが証明写真がどうも気になる。
眼鏡をかけた狸顔の二つ結びの女。
何が気になるって彼女の表情だ。証明写真にするには似つかわしくないむすっとした表情でこちらを睨み付けている。
「まさか新入社員とか言わないでくださいよ」
「さすが大都。正解よ。でもそれだけじゃないわ」
「ご令嬢ですか?」
そろそろ縁談話があるだろうと思っていたが、まさか新入社員として働く令嬢とは思わなかった。
見知らぬ男と縁談させられるだけでなく働けと言われたら反抗もするだろう。
だが、これを履歴書に貼り付けるとはなんとも勇ましい女性だ。
「遠からずも近からず。彼女の父親は食堂を経営しているわ」
「食堂。全国展開しているという事ですか?」
「いいえ。1店舗のみよ」
「はあ……」
単なる個人経営ではないか。縁談かと身構えて損した。
「彼女は大都にとっての幸運の女神よ」
「幸運の女神?」
「ええ。彼女と結婚できれば社長の座は大都、あなたのものよ」
「しゃ、ちょう……」
どんな企業にも後継ぎ問題が発生する。
俺の祖母、円宮澄江は有名な化粧品会社を経営している。本来なら副社長をしている父がとっくの昔に社長に就任しているはずなのだが、婿である父より血の繋がりのある俺か妹を社長にしたいようで70を超えた今も現役で社長として働いている。
だが、ようやくその玉座を受け渡す時が来たということらしい。
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