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パーティーでは大切にされてるけどうまくいかない
「バカどもがぁあああ!」
絶叫とともに、わたしは飛び起きた。
「あ、生き返った! よかった、心配したんだよ?」
パーティーの唯一の良心・ブレドがほほ笑んだ。
へ? どういうこと?
気づくと、わたしはやたらと硬くて狭いベッド--ではなく、棺桶の中に座り込んでいた。
「……おまえの見事な散りざま、この俺が確かに見届けた……」
長い前髪を右手でファッサァしながら、ディエゴが言った。いまはもう生き返っただろうが。うざいな、おまえもおまえの前髪も。どっちも切ってしまえ。
「棺桶入りのおまえ、すっげえ重かった! 二人入ってるかと思った!」
ブレドの横で、わたしが回復呪文をかけなければ真っ先に死ぬはずだったアルフがわたしの重さについて元気よく率直な感想を言ってくれる。どうもありがとう。今度、おまえが死んだら、同じセリフを言ってやるよ。
「MP切れて、スライムの一撃で死ぬなんて、かっこ悪!」
アルフを心の師と仰ぐ冒険小僧クレイが師に倣った率直な感想をもう一度くれた。模造刀でスライムに一撃も入れられなかったおまえも、たいがいかっこ悪いけどな。
生き返ったわたしを囲んで、勇者たちは口々に「傷が残らなくてよかったね」「……再び、始動、だな……」「よし、冒険へ出よう!」「世界樹へ早く行こう!」と会話する。
傍目から見れば、病弱系の男子、憂鬱系の男子、元気系男子二名(ショタ含む)に囲まれて、わたしは両手に花どころか両手両足に花だろう。
だが、今はもう知ってしまっている。
この男子どもが、アッパラパーの脳みそゼロ、アホの集団だということを。
「まさかと思うけど、まだこのパーティー続けるつもり……?」
「当然だ! 親友のブレド、オレ、クレイ、ディエゴ、勇者が4人そろっている。今度こそ世界樹へたどり着ける!」
力強くアルフが断言した。うん、リーダーっぽい。リーダーっぽくて勇者っぽい発言だよ。今後の道しるべとしての情報量はゼロだけどね。
「今朝、スカウトされたときに訊き忘れたんだけど」
わたしは慎重に確認する。
「魔王を倒せる世界樹の枝を探してるって言ってたけど、世界樹ってどこにあるかわかってるの?」
まぁ、スライム一匹でパーティ全滅の危機に陥るくらいだから、実力的には魔王倒す以前の問題もあるけど。
「わからん!」
アルフが元気よく教えてくれた。
そんなことだろうと思ったよ。
気合だけで願いが叶ったら、苦労しないわ。いや、苦労は必ず報われるわ。
そうじゃないから、世知辛いんでしょーが。
転生にすがったんでしょーが。
わたしは切り出す。
「あのさ、こんなこと言いたくはないんだけど」
「なら、言わなくていいぞ!」
「いや、言わせてもらうわ。わたし、このパーティー、抜ける」
「なんだってぇえ!」
アルフの手が震えた。ディエゴは膝から崩れ落ちる。ブレドは悲しそうに目を伏せ、クレイはわんわん泣き始めた。
アルフはキッと眼を鋭くする。
「ヒーラーがいなくなったら、オレたちはどうなってしまうんだ!」
「魔王討伐じゃなくてそっちかよ!」
「オレたちがいなければ、魔王の支配は終わらない!」
「なんかうまいことつなげたな! でも騙されない」
「君はパーティーに必要だよ」
ブレドが静かに言った。うう、なまじパーティーの中でまとも度が高いブレドの言葉は勢いだけのアルフのセリフより胸に刺さる。
「だってぼくたちは回復呪文が使えないのだから」
「やっぱりそっちかよ!」
「それに、こんなこと言いたくはなかったのだけれど……」
ブレドが言いよどんでから、ペラ、と一枚の紙をわたしの膝に置いた。
「君の蘇生にはお金がかかってるんだ。で、お金はぼくが出してるんだよね」
畜生、熱血勇者の幼馴染は病弱金持ち勇者だった!
転生したばっかりで死んで蘇生したわたしは、早くも借金持ちになっていた。
前世も貧乏だったのに、今回も赤字を抱えるなんて、呪われている。
ぶるぶる震える手で紙を取り上げ、ゼロの数を数えた。
「なんじゃこりゃー!」
ぼったくり。間違いない、5人くらい蘇生できる金額が請求されている。そしてこの脳みそが空っぽな勇者たちはホイホイとそれを支払ってしまい、その結果、このとてつもない金額がわたしの借金に……!
「大丈夫だよ、君はちゃんと成果を出すひとだって知ってるから」
ブレドがまた微笑む。ちょっと待って、こいつ、本当に勇者? 実はこいつが魔王で親友は闇落ちしてましたってパターンじゃないの?
「……話が、まとまったな……フッ」
ディエゴが人差し指と中指でわたしを示す。なんだ、その謎のポーズ。
「オレ、オレ、信じてた!」
クレイが涙と鼻水をわたしのマントでぬぐう。何を信じてたんだ、金の力か? それならわたしも前世から信じてたわ。むしろ転生したら、それ以外の価値観もあるって思いたかったわ。
「よし、じゃあ、世界樹に向かって出発だ!」
アルフが片腕を突き上げる。他の三人も突き上げる。
「で、目的地はどこなの……?」
呆然と、わたしは勇者たちに突っ込んだ。
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