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転生して念願のヒーラーになったがうまくいかない
正直に言う。前世のわたしはコミュ障だった。
学校のカーストでは最下層、というか、存在の認識すらされず、毎日体育倉庫の裏で防火水槽に生えた苔を眺めながら自分で作った具なしおにぎりを一人で食べていた。
コミュ力が高ければ、友達を作って弁卓を囲みながら「塩むすび最高!」とか「ちょっと悲しいよね、でも米うまい、ははは」とか言えて、「ほら、ウィンナーあげるよ」って友達からリアクションもらえたり、笑いを取ったりできたと思うけど、そんな引出しは親の子宮に置いてきていた。
なにせ小学校入学前からの放置児、筋金入りの鍵っ子だったので、自分以外の人間がいる空間を日常的に知らない。
どうやって会話を始めたらいいのかわからない。
入学、新学期、クラス替え、班替え、友達を作るチャンスはそれなりにあったと思うけど、ことごとく脳内の妄想だけで終わった。
「ぁ、ぁの…」「ぅ…」みたいな日本語以前の音声を喉から絞りだしても、通じるわけがない。
ダメ押しに、容姿、頭脳もいまいちだった。
そりゃそうだ、栄養状態が悪くて、塾にも行けず、放置されっぱなしの子供がキラキラな容姿端麗頭脳明晰になるわけない。
ちなみに努力のやり方も知らなかった。周囲に努力している人間がいなかったので。
だから、狭くて臭いアパートの布団の中で、熱中症と栄養失調のコンボを決めて、意識がもうろうとする中で思ったのは、「なにかとりえがあったら、誰かに話しかけられたのかなぁ」「誰かに必要とされる存在になりたかったなぁ」という切実な願いだった。
もう一人ぼっちは嫌だ。
防火水槽に貯まった水の上をスイスイ進むアメンボを眺めながら、「アメンボにだって仲間はいるんだなぁ」なんて思うのは嫌だった。
どうか、どうか。
この人生はもうあきらめるから、次の人生があったなら、コミュ障でもいいから、なにかとりえがあって、周囲に必要とされる存在になれますように。
そう願って、わたしは目を閉じた。
「……っていう、ささやかな願いだったのに!!」
思わず罵声が飛び出た。
「急いでくれ、ブレドが死ぬ!」
「やってるよ!」
口早に回復呪文を唱える。なにせこのパーティーで回復呪文を使えるのはわたしだけ。ブレドは血を吐きながら、「アルフが死んでしまう……」と冷静に指摘した。知ってる、前衛のアルフはいま絶賛戦闘中そして残りのHPが3しかない。次の攻撃を受けたら即死だ。
なのに。
「ブレドの仇ー!!」
なんで率先してスライムに突っ込んでいくかな?!
ブレドの体は呪文で持ち直したけど、HP15、MPも低めな虚弱体質なので、もとから戦力にならない。
いや、パーティーでは一番頭がいいんだけれども。二秒先を考えない突発的で熱血なアルフと同じ環境で育った幼馴染とは思えない。
そんなことを考えながら前線を見れば、スライムの一撃を受けて「うわあああああぁ」と絶叫しながら、アルフのHPがゼロになるところだった。
「めんどくさいから死なないで!」
アルフに回復呪文をかける。
その横を「アルフさんの後はオレが!」と威勢の良い声とともにクレイが駆け抜ける。小さな足で。
「小学二年生相当が勝てるわけないでしょうが!」
熱血アルフを崇拝している冒険小僧クレイはだれにも止められない。
模造刀でスライムに突っ込んで自爆する。
クレイのHPは8しかなかったのにすでに6を失っているので、そりゃスライムの一撃が致命傷になる。
「誰か、止めてー!!」
叫びながらクレイにかける回復呪文に入る。死人が入る棺はめちゃくちゃ重いらしいから、絶対に引っ張りたくない。
「フ、強敵に苦戦しているようだな……」
背後のディエゴが長い前髪をかきあげながらつぶやく。そうだ、こいつはずっと後衛でまだ無傷、HPも余裕がある。
「前へ出て戦ってよ!」
「すまないが……俺の封印された第三の邪眼をこんなところで開放するわけにはいかない……おまえも巻き込んでしまう……」
「うるっせえぇ! 単にデコに模様描いてるだけでしょうが! あんた、MPゼロのくせにどんな破滅魔法を使うつもりだよ?!」
「見えるものにしか見えない、か……。残酷な真実だな……」
「目の前の現実が見えてねえのはおまえだよ!」
おかしい、わたしはコミュ障だったはずだ。人の目を見てきっぱりしゃべる、話すなんて到底できなかった。
ましてや怒鳴るなんてしたことがなかった。
でも、この状況では言わざるを得ない。突っ込まざるを得ない。
「勇者だけでパーティー組んだおまえたちは馬鹿の最上級かつ複数形!」
そう、今朝酒場でヒーラーなりたてのわたしをスカウトしてきたパーティーは魔王を倒せる世界樹の枝を探す旅の途中で、回復呪文を使えるヒーラーを切実に求めていた。
わたしはこのパーティーで必要とされていた。求められていた。
だから、うなずいて参加したのだが。
わたし以外は全員勇者(うち一人は重度の中二病)だなんて、聞いてなかったよ!
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