揺るがぬために(二)

1/1
8人が本棚に入れています
本棚に追加
/34ページ

揺るがぬために(二)

――ケキョッ、ホケキョ  ここで聞こえてきたのは、(うぐいす)のさえずりだった。  春告鳥(はるつげどり)とも称されるその鳴き声は、この時期、まだ少しおぼつかない。それがなんとも微笑ましくて、そろって顔を綻ばせた。 「もうすぐ暖かくなりそうですね」 「旅人にとっては、ありがたい季節だ」  人の世の(いさか)いなんてどこ吹く風で、自然の営みは、こうして変わらず続いていく。自分たちは大きな流れのほんの一部に過ぎないと、思い知らされる気がした。  木の枝に、緑がかった茶色い姿がちらつく。 「わあ、珍しい。声だけでなく、姿まで見られるなんて」 「こりゃあ、縁起がいいな」  小さな楽士(がくし)を驚かせぬよう、そっと囁き合いながら、師弟はしばらく耳を澄ませていたのだった。 【完】 ご覧いただき、ありがとうございますm(_ _)m いつもは阿吽の呼吸で戦う二人ですが、今回はそれにズレが生じた出来事を綴ってみました。 世の中、理不尽や相容れないことは多々ありますが、自分が自分の味方でいてあげられるよう信念をもっていたい! そんな思いも込めたお話でした。
/34ページ

最初のコメントを投稿しよう!