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揺るがぬために(二)
――ケキョッ、ホケキョ
ここで聞こえてきたのは、鶯のさえずりだった。
春告鳥とも称されるその鳴き声は、この時期、まだ少しおぼつかない。それがなんとも微笑ましくて、そろって顔を綻ばせた。
「もうすぐ暖かくなりそうですね」
「旅人にとっては、ありがたい季節だ」
人の世の諍いなんてどこ吹く風で、自然の営みは、こうして変わらず続いていく。自分たちは大きな流れのほんの一部に過ぎないと、思い知らされる気がした。
木の枝に、緑がかった茶色い姿がちらつく。
「わあ、珍しい。声だけでなく、姿まで見られるなんて」
「こりゃあ、縁起がいいな」
小さな楽士を驚かせぬよう、そっと囁き合いながら、師弟はしばらく耳を澄ませていたのだった。
【完】
ご覧いただき、ありがとうございますm(_ _)m
いつもは阿吽の呼吸で戦う二人ですが、今回はそれにズレが生じた出来事を綴ってみました。
世の中、理不尽や相容れないことは多々ありますが、自分が自分の味方でいてあげられるよう信念をもっていたい! そんな思いも込めたお話でした。
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