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立ち寄った町(一)
この日彼らが辿り着いたのは、とある町だった。
さほど大きいわけではないが、商いのやり取りや長屋前での世間話が、いたる所から聞こえてくる。
「――この帯紐なんかどうです? 安くしておきますよ」
「あら、本当、紐屋さん? どうしようかしら」
「――ちょうどええですわ。この一振り買うていきましょ」
「どうも、お買い上げありがとうございます」
「――振売の兄さんが向こうで良い魚を扱ってたよ」
「そうなの? どれ、見てこようかねえ」
賑やかな声の中にいれば、たまに吹く冷たい風も気にならなくなる。
先ほど町へやってきた二人の表情も、自然と和らいでいた。
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