2022/9/16 「優等生」

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突然だが俺には今好きな人がいる。それは同じクラスの花沢香奈さんだ。彼女は別段目立つタイプではないのだが、いわゆるthe優等生で成績優秀、性格も良く誰からも一目置かれている。そんな彼女と比べると俺は運動神経しか取り柄のない、成績は下から数えた方が早いようなそこらへんにいる生徒Aでしかない。そんな彼女と俺には何の共通点もないのになぜ好きになったのか気になるだろう。それは思春期男子によくある一目ぼれである。彼女と出会ったばかりのころは、クラスの一人という認識で気にも留めていなかった。しかし、ある日の放課後のことだ。俺は部活の途中に忘れ物をしたのを思い出し慌てて教室に戻った。勢いよく扉を開けるとそこには先客の彼女がいた。窓辺の席に座り本を読んでいた彼女は、日の光に照らされていて横顔の髪の隙間から除く優しい瞳を見て俺は一瞬で恋に落ちたのだった。しかし緊張しいな俺は声をかけることもできず、毎日彼女を見つめるばかり。今日の部活では初歩的なミスを犯してしまい、自分はなんて不甲斐ないのだと肩を落としながら帰宅しているその時だった。彼女にそっくりな、しかし別人を見たのは。部活帰りの下校時はちょうど帰宅ラッシュにかぶってしまうため、駅には人がごった返しまっすぐ歩くことすらも困難なほどである。今日も今日とで人は多く、俺はぎゅうぎゅうになりながら電車に揺られていた。そして最寄りの駅にやっとついて、満員電車から解放された瞬間俺の目は一人の女性に奪われた。髪の毛には大きなリボン、胸元にはレースがふんだんにあしらわれ、真っ白な靴下にヒールの高い靴。彼女はいわゆるロリータファッションに身を包んでいた。なかなかそのような格好をする人がいないので、あたりの人は不審な目で彼女を眺めていたが、彼女はそんなこと気にもせず背筋をピシッと伸ばし美しく歩いて行った。その姿が可愛らしくありながらとても美しく思えた。しかし、彼女の凛と輝いた瞳、そして顔立ちには覚えがあった。俺の思い人である香奈さんにそっくりだったのだ。初めはまさかと思ったが見れば見るほどそっくりである。彼女にこんな趣味があったとは。俺はこっそり彼女の秘密を知った気になってうれしさで舞い上がりそうだった。だってそうだろう?自分の好きな子がいつもは制服を着崩したりなんて絶対にしない優等生なのに、まさかロリータファッションなんていう可愛い恰好が趣味だったなんて。それにいつもは目にすることが出来ない可愛らしい彼女の一面を知り俺は興奮していた。しかしどうしよう。彼女に声をかけてしまってよいのだろうか。別人かもしれない。それに俺にこんな姿を見られたら彼女は嫌がるかもしれないし、嫌われてしまうかも。そんなことを考えていると改札近くまで来てしまい、人込みも多くなりもう少しで見失ってしまいそうになってしまった。ええい、これでいいのか俺!チャンスじゃないか。彼女に話しかけてきっかけを作るんだ、毎日眺めるだけの生活にはさよならするんだ。そう心の中で叱咤激励をし俺は彼女の方にそっと手を置いた。 「あの、もしかしなくても香奈さんだよね。」 そう話しかけた時の彼女の顔は羞恥で耳まで真っ赤だった。 「や、山口君。これはその違うの、あのね、ど、どうしよう誰にも言わないで 、恥ずかしい。」 そう話す彼女の顔は恐怖で怯えていた。考えてみればそうだ。自分の隠していた趣味が同級生に露見してしまったのだ。いつもは優等生なのにこの秘密がばらされたらどうなってしまうのか。彼女の不安が目に見えるようだった。そんな顔をさせたかったんじゃない。俺はただ… 「違うんだ、あまりにも奇麗だったからそれで。」 ば、馬鹿!俺は何を言っているんだ。そんなことを言われたら気持ち悪がられるに決まってる。 「え、奇麗?変に思わないのこんな格好。」 「そんなわけないよ。すっごく似合ってる。かわいいしそれに奇麗だ。」 「あ、ありがとう。こんなこと初めていわれた。すごくうれしい。でもこの服は可愛いけどどうして奇麗なの?」 それは、 「君が奇麗だからだよ。自分の好きなことを楽しんでいる姿が、そしてその瞳がとても奇麗だ。」 俺はまた何を言ってるんだ。ああ、これでもう香奈さんに嫌われた。せっかくのチャンスだったのに。 「ふふふ、面白いこと言うね。でも嬉しいありがとう。中学校でねまたね拓哉君。」 そういうと彼女は初めて見たような満面の笑みで、嬉しそうにスカートを揺らして帰っていった。
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