恋に似た魔法

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 翌朝、寝不足の気怠さが抜けないままでキッチンへ行くと、珍しく姉が料理をしていた。  香ばしいトースト、半熟のハムエッグ、具材の少ない野菜スープ。それは卓上に二つずつ置かれており、僕は思わず疑問を口にした。 「父さんと母さんは?」  返事なんか貰えないと思っていた。けれども姉は(おぼろ)めきながら笑い、 「旅行に行くって聞いてない?」  と返してきた。必要事項だろうに、教えてくれなかったのはどこのどいつだ。 「ねえ」  驚いた。姉は会話を続けるらしい。 「なに」  やや淡泊になってしまう自分に照れて目を逸らす。 「仲直りしよっか。もう私、大丈夫だから。彼と別れることに決めたから」  エッと思い、僕は姉の目を見つめた。 「どうして」  言うと、何が()()しいのか、くすくす笑い出す。 「何だろうね。夢の中でそんな気になった」  その言葉に、確かな意志を感じた。そうだよ、あんな奴……と言おうとする僕を制し、姉は静穏な口調で言った。 「優しい泥棒さんが、心配しているみたいだから」  どうやら、僕の魔法は今、結実したようだ──。                                      (了)
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