届かぬキミに伝えたい

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届かぬキミに伝えたい

またこの季節が来た。 キミに想いを伝えた季節。 不慣れで、 人見知りで、 弱かった君に、 自信に満ちて、 社交的で、 強がりだった俺が、 初めて本気の恋をした季節。 なかなかOKを出さない君に、 俺は強く迫った記憶が、 鮮明にある。 その時点で、 キミとの温度差は知っていた。 心を開ききっていないキミは、 渋々OKを出して、 俺とキミはスタートした。 キミは俺に本名を隠し、 しばらく俺は違う名を呼び続けた。 もちろん、 告白の時も、 違う名前を呼ばれ、 好きだと言われるのは、 今思えば、 辛かったんだろう。 秘密主義なのか、 俺を遊びと思っているのか、 怖かったのか、 いずれにしても、 俺に見抜く力はなかった。 キミは就職を控え、 俺はまだ学生。 共に実家暮らし。 一足先に社会に出ていくキミと、 恋にうつつを抜かす俺。 主導権は俺にあって、 キミは従う。 共に実家暮らしだった2人。 キミの実家には行けない分、 俺の実家に呼ぶ。 片道1時間半の道を、 白い軽自動車で来るキミを、 俺は当たり前に思った。 ただ、 会いたい。 キスしたい。 一緒に眠りたい。 遊びに行きたい。 周りに自慢したい。 若い頃の、 ある意味純粋な残酷さ。 控えめで、 自己主張の少ないキミに、 俺は常に主導権を握った。 それでも最初は付いてきた。 次第に、 キミも慣れてきて、 弱い部分や、 人を信じられない部分、 マイナスな部分を、 見せるようになった。 そんなキミの言葉尻に、 俺は怒りを、 ぶつけたこともあった。 キミの左腕には、 無数の傷跡がある。 深くは聞かなかったが、 何度も切った跡。 今となれば愛おしすぎるキミの闇。 当時は深くは考えず、 ただただ、 キミを好きだった。 キミが俺の名を呼ぶのが、 嬉しくて、 甘えてくれるのが、 嬉しくて、 感じてくれるのが、 嬉しくて、 毎日でも会いたかった。 キミが俺と離れている、 大半の時間を、 どんな思いで過ごしているか、 はたまた、 どんな過去を持ってきたか、 そんな事は、 俺には無用だった。 地元で就職をして、 キミは俺の実家に来ることを、 少しずつ拒み出した。 会うこと自体も。 単純に、 俺はキミが俺を嫌いになった、 または、 別な人が出来たと、 思い込んだ。 しかし、 それを聞くこともしなかった。 怖くて聞けなかった。 だから、 キミの弱さを利用して、 力で抑えようとした。 もちろん、 精神的な力で。 そんな最中、 ふとしたキッカケで、 キミが俺に、 本名を隠しているのを知る。 騙されてる気がした。 もしかしたら、 弱さも、 不慣れ感も、 人見知りも、 全て演技かもしれない。 会う頻度を減らしたがるのも、 俺に満足しないからかと、 思い始めてから、 俺は余計にキミの気持ちを、 考えなくなっていった。 ある日、 週で唯一のキミの休みを、 いつものように、 俺の実家で過ごす。 最初キミは、 ゆっくり休みたいと言った。 それをねじ伏せて、 来させた。 キミはマイナス思考な発言や、 愚痴を繰り返した。 俺はそれを無視して、 呼びつけたにも関わらず、 キミを放置した。 いつものように、 体を重ねて、 キミは翌日昼間に帰っていった。 それがキミを見た最後になるとは、 想像だにしなかった。 一切の連絡手段を経ち、 俺に、 別れも、 怒りも、 憤りも、 何も言わずに、 去った。 そういう奴なのかもしれない。 名前を偽り、 自分の体を傷付ける奴。 別れるにしても、 そういう方法しか取れない奴。 俺は騙されててもいい。 俺の本気を弄ばれてもいい。 そう思える。 俺が1番好きだった人。 もう既にこの世にいない、 そんな想像もする。 はたまた、 病んでしまっている、 そんな想像もする。 さらには、 別な人と幸せに暮らしている、 そんな想像もする。 究極には、 俺との別れを、 未だに悔やみ続けている、 そんな想像もする。 どんな結末でも構わない。 俺はキミが直接、 意思表示をするまで、 キミを忘れないだろう。 SNS全盛の時代でも、 出てこないキミ。 本気で探せば、 結末は手に入るけど、 それは違う。 俺の想いが、 いつか届くと信じてる。 だから、 俺は待つ。 キミは俺に、 最後を告げる必要があるから。 必ず、 キミは間違いに気付いてる。 その間違いを、 心に宿しながら、 過ごせるはずはない。 例え今が幸せであろうと、 ふと蘇るはずだ。 その事にキミ自身が、 耐えられなくなった時、 俺の目の前に、 現れると、 信じている。 もちろん、 俺はキミに、 あの時と同じように、 純粋に、 謝りたい。 若さだけでは、 理由にならない。 俺なりの、 ケジメを付けたい。 いつの日か、 ふとした瞬間に、 すれ違う気がしてる。 容姿が変わった2人でも、 必ず気付く。 2人の時間が、 短くとも、 それぞれにとって、 それが唯一の恋だったから。
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