それはぜんぶ、寝ぐせのせい

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* 「俺の部屋に浪くんの本が増えていくんだけど……。詩乃が悪いね」  そう言って、僕の本を抱え、穴吹先輩はときどき部屋にやってきた。 「いや、読み終わってるんで」  扉を開いて、どうぞ、と部屋に招き入れる。 「俺は本なんて読まないけどさ、詩乃は盗んでまで読むんだよね。意外だよ」 「そうですね」 「……意外といやぁ……」 「なんですか」 「浪くん、もしかして、俺と同じ高校?」  跳ねたのは僕の心臓で、それを悟られないように、 「えー、そうなんですか?」  と、疑問で返した。 「……うん、どうやらそうだったみたい。部活はテニスだった? 同級生に聞いたら、そうじゃないかなって」 「偶然ですね、気づきませんでした」  脈を打つ心臓に合わせて、声が上擦らないように。(つと)めて平静に。 「ほんと、すごい偶然。って、あ」  本棚に入れ終わった先輩は、横の水槽に目を移した。 「メダカ飼ってるんだ。俺も小さい頃、飼ってた。餌やりすぎて、ぶくぶく太っちゃったんだけど、また飼いたいな、水槽のフィルターとか管理大変?」 「いや、簡単ですよ。……今、マツモとかホテイ草とか入れて、数を増やしてる途中で」 「いいなぁ。……じゃあ、てきとうに増えたら、俺にもくれない? ほら小さな金魚鉢でそよそよ泳ぐの見ると癒されるよ。健気な生き物って感じで」 「ですね。……繁殖が成功したら差し上げますね」 「サンキュー。なんか、詩乃のこともそうだけど、浪くんに頼っちゃって悪いね」 「いや、いいですよ。僕もメダカ好きが増えるのは嬉しいです」 「……浪くん良い子だね。それに寝ぐせ、可愛いー。……朝早くに来てごめんね。詩乃が寝てるときに本を持ってこないと、あいつに気づかれちゃうからさ。夜はバイトで」 「あー、いつ来てくれても、大丈夫ですよ」  それより、何より、先輩がこの部屋に来てくれることが一番嬉しいです。  これは口にできないけれど、僕が一番思っていることだ。先輩を見送って、洗面所に立つと、髪たちは思い思いの好き勝手な方向に。男も恋愛対象に入るのだろうか。ノズルを捻り、頭を流す。  先輩が僕を可愛いと言ってくれた言葉を反芻して、寝ぐせとざわつく心音を鎮めた。
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