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「……どういうつもり?」
「……わたしだって聞きたい。なんで、浪の本を先輩が返すの? わたしが返しに行けばいい話だよね」
「俺は詩乃が勝手に盗ってきたから、浪くんに申し訳ないと思って、詩乃の代わりに返しただけだよ」
「じゃあ、わたしに直接言えばいいじゃん。浪も浪だよ、なんで、わたしが本を盗っても何も言わないの?」
先輩に会いたかったから、と言いたかったけれど、いきなりすぎて口にはできない。僕は困りながら室内を見回し、最終見る場所に迷って水槽に目線を向けた。メダカはいいな、つがう相手を無差別に選べて。って、現実逃避をしている場合ではないな。
翔也がここにいたら、また修羅場じゃん、って軽く笑って流せるのだろうけど、僕にはそんな高度なスキルは備わっていない。
「……本を盗って、スリルを味わおうと思っていたのは詩乃だろう? 俺を藍と別れさせた時みたいに」
「好きって言ったのは先輩で、わたしもその時はすごく先輩のことが好きだった。だけど、藍先輩と別れてからの先輩は、なんだか、普通っていうか、しばらくは輝いてたけど、もう輝いてないっていうか……」
―――あの子、人のものは何でも盗ってしまうらしいよ。
誰かが噂した詩乃のことが、頭の中で舞う。
「俺が浪くんを可愛いって言ったこと、気にしてる?」
「だいぶ」
「だから、俺が好きになりかけていた彼を盗ってやろうって?」
「多分ね」
「酷い女だな。あっちにフラフラ、こっちにフラフラ。泥棒猫?」
「先輩こそ、浮気癖、治らないの?」
人の家で別れ話を終結させたあと、詩乃は持っていた本を華奢な鞄に堂々と入れた。
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