それはぜんぶ、寝ぐせのせい

7/8
前へ
/8ページ
次へ
「……どういうつもり?」 「……わたしだって聞きたい。なんで、浪の本を先輩が返すの? わたしが返しに行けばいい話だよね」 「俺は詩乃が勝手に盗ってきたから、浪くんに申し訳ないと思って、詩乃の代わりに返しただけだよ」 「じゃあ、わたしに直接言えばいいじゃん。浪も浪だよ、なんで、わたしが本を盗っても何も言わないの?」  先輩に会いたかったから、と言いたかったけれど、いきなりすぎて口にはできない。僕は困りながら室内を見回し、最終見る場所に迷って水槽に目線を向けた。メダカはいいな、つがう相手を無差別に選べて。って、現実逃避をしている場合ではないな。  翔也がここにいたら、また修羅場じゃん、って軽く笑って流せるのだろうけど、僕にはそんな高度なスキルは備わっていない。 「……本を盗って、スリルを味わおうと思っていたのは詩乃だろう? 俺を藍と別れさせた時みたいに」 「好きって言ったのは先輩で、わたしもその時はすごく先輩のことが好きだった。だけど、藍先輩と別れてからの先輩は、なんだか、普通っていうか、しばらくは輝いてたけど、もう輝いてないっていうか……」 ―――あの子、人のものは何でも盗ってしまうらしいよ。  誰かが噂した詩乃のことが、頭の中で舞う。 「俺が浪くんを可愛いって言ったこと、気にしてる?」 「だいぶ」 「だから、俺が好きになりかけていた彼を盗ってやろうって?」 「多分ね」 「酷い女だな。あっちにフラフラ、こっちにフラフラ。泥棒猫?」 「先輩こそ、浮気癖、治らないの?」  人の家で別れ話を終結させたあと、詩乃は持っていた本を華奢な鞄に堂々と入れた。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

21人が本棚に入れています
本棚に追加