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松林陸は今日、初恋の人に振られた。
初恋の人であり、幼馴染でもある蘭月麦はきっと今頃クラスに突然やってきたイケメンと楽しい夏祭りを過ごしているだろう。
幼馴染という、これから先誰が現れようと奪えないこのポジションと、変な関係にならず永遠に一緒にいたいと思う感情から告白を引き伸ばし続けていた。
「もっと早く告白しとけば良かったな…」
祭りの喧騒の中で、一人、陸の心は暗闇の中にいた。提灯の灯りも、屋台の良い匂いも、祭囃子すら陸には届いていない。
ベンチの上で一人、涙ぐんでいると
「どうしたの?」
誰かの声が聞こえた。
陸が顔を上げると、そこには
天使がいた。
いや、正確に言えば山﨑綾菜という学校のマドンナだった。しかし、灯に照らされ、白いワンピースを身につけた彼女は、まるで天使だった。
全ての音を遮断してきた陸の耳に、彼女の温かい声だけがふわっと舞い込んできた。
「山崎さん…?こんなところでなにを…」
「何ってデートだよ」
綾菜は陸に向かって歩き、手すりに両腕を乗せる。
「まぁ、予定だった。って話なんだけどね。風汰くんと付き合えたらここに来たいなってずっと思ってた。相手いないからお祭りには結局一人できたけどね。でもやっぱり、虚しくなって人気のないところ来たら松林君が泣いてた」
「そっか…」
そう。陸の幼馴染の月麦は、桜井風汰という転校生に告白しに行くために、陸の元を離れた。でも、綾菜も風汰のことが好きだったのだ。
「失恋の先輩が話聞いてあげようか?」
「ぜひお願いしたい…」
「ふふっ。今日も相変わらず素直だね」
綾菜は気丈に振る舞っているが、本当は辛いはずだ。なんせ、自分は風汰に告白して振られたのに、仲の良い月麦と風汰は上手くいきそうだから。
「…山﨑さんは、風汰に振られてしんどかった?」
「うん、そりゃ、ね。でも、うちは今は月麦と風汰くんの幸せを一番に願ってる」
「そっか」
「うん。月麦はうちにとって大切な親友だもん」
「僕もそう思える日が来るのかな?」
「また好きな人を見つければいいんじゃない?」
「そう簡単には見つからないよ」
陸はそう言いながら、見つける気などさらさらなかった。いや、それは強がりだ。本心を言えば、陸は今日まで月麦にしか恋をしたことがない。他の人間に恋する方法などわかりそうにもなかった。
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