君と恋を奏でられたら

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部活の帰り道。陸は友人の柿原修介(かきはらしゅうすけ)といつも通り帰っていた。    「今日のメニューきつかったなー」  「だね、久しぶりにゆっくりしたい」  「あ、それで思い出した。お前明日暇?」  「え?暇だけど」  「まじ!じゃあ、これあげるよ」  そう言われて篠原から渡されたのは映画のチケットだった。  「映画?明日観に行くってこと?」  「いや、俺は塾あるから行けないんだけど、期限明日まででさ。誰か誘って行ってこいよ」  「えー、明日空いてる人いるかな?」  「わかんないけど、どっちにしろ俺が持ってても捨てるだけだし」  陸は家に帰ると、何人かを映画に誘った。しかし、前日ということもあり予定が空いている人は中々いなかった。  「んー、でも久しぶりに映画観たいしなぁ」  あ、そういえば。  「今日、山﨑と映画の話したっけ…」  陸はクラスのグループを開き、綾菜の連絡先を見つけた。  「これか…」  陸はしばらく考え込む。でも、綾菜とは特段仲のいいわけではない。急に誘ったら変だろうか。  「いや、友達だし、問題ないか」  陸は綾菜にメッセージを送った。 ーーーー  ピロン。と綾菜のスマホが鳴る。  「誰だろ」  それは陸からだった。  『追加ごめんね、陸だよ。映画のチケットもらったんだけど明日暇?良かったら一緒に観に行かない?』  「…え?」  綾菜は正直驚いた。陸は月麦とはよく出かけていたが、他の女子と二人きりで出かけることはなかったからだった。  まるでデートの誘いのようなメッセージに綾菜は戸惑う。  「あんな一筋だったのに、なんで?」  いや、でもこれがデートの誘いとは限らない。綾菜が恋をしないと決めたように、陸ももう異性を友達として見ているのかもしれない。  「うーん…」  綾菜は悩んだが、友達として一度出かけるくらいなんてことないと思った。  『いいよ!明日部活休みだから。友達と映画行くの久しぶりだから楽しみ』  と、綾菜は友達を強調して返信した。  『お!本当!良かった。観たい作品ある?』  綾菜はその返答に答えるため、上映中の映画を調べた。  「うーん、無難なのはこの探偵ものの映画かな。恋愛ものは避けたいし。あ、これずっと観たかったやつ…」  綾菜の目に止まったのは、アクションものの洋画で、その作品は十年前の続編として描かれたものだった。  「いや、でもこれは好み分かれるし、十年前だもんね。観てる人いないよね」  そう思い、綾菜は陸に判断を任せた。  『何でもいいよ!』  この返答だと困るかなとも思ったが、陸の事をよく知ってるわけではないので任せる事にした。  『じゃあ、この辺どうかな?』  陸は三作品の画像を送ってきた。その中には綾菜の観たかったあの作品も含まれていた。  『この洋画、前作観たの?』  『観たよ!面白かったから続編気になってて』  綾菜はすごく嬉しくなった。自分一人でしか楽しめないと思っていたものを知っているなんて。  『うちもこれ観てて、気になってたの!』  『お、じゃあこれにしようか』  綾菜は思わず口元が緩む。今まで映画の趣味が合う人がいなくて、よく一人映画に行っていた綾菜にとって感想を言い合える人がいることはとても嬉しい事だった。そんな事を考えていたから、綾菜の口からは思わず  「楽しみ…!」  という言葉が溢れた。
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