君と恋を奏でられたら

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 映画の約束の日。  陸は綾菜との待ち合わせ場所に向かった。しばらくすると、誰かに声をかけられた。  「おはよう」  「え、あ、おはよう!」  陸は久しぶりに見た綾菜の私服姿を見たなと思った。  「ごめん、一瞬誰かわからなかった」  「え、なんでよ」  「いや、可愛いなと思って」    陸が素直にそう言うと、綾菜は何も言わなかった。つい出てしまった言葉だったが、あまり照れない様子を見てさすが言い慣れているのだろうなと陸は感じた。  「あー、じゃあ行こっか」  陸がそう言うと、綾菜は頷き歩き出した。  「あ、そうだ!これ見て!めっちゃ可愛くない?パンダ!」  陸は話題を振るために、自分のスマホケースを見せた。これは陸のお気に入りのケースだ。  「うん、可愛いね」  綾菜はそう言うと、少し置いてからまた話し出した。  「ねぇ、どうして陸くんはそうやって可愛いものを身につけたがるの?」  急な質問に陸は驚いた。なぜそんな事を聞くのだろうか。  「え?だって、僕は可愛いポジションで生きてるからいいかなって。それに、可愛いもの好きだし」  「男なのに可愛いって言われるの嫌じゃないの?」  綾菜が珍しく真剣な目で訴えてきたので、陸はいつもよりトーンを少し落とし話し始めた。綾菜が何を思っているかはわからなかったが、質問にはきちんと答えようと思ったのだ。  「うーん、昔は嫌だったよ。僕は男なのにって。でも、そう思い続けてると可愛いって言われる度にちょっと苦しかったんだよね。だから、僕はそう思うのをやめた。そもそも、その言葉を言った人達は僕のことを馬鹿にしようとしてるわけじゃないんだもん。相手が褒めてくれた言葉を素直に受け取れた方が人生楽しいに決まってるでしょ?だから今は可愛いって言われると、そんな風に褒めてくれてありがとうって思ってるし、すごく嬉しくなるよ」  陸はこの返答が正しいのかはわからなかったが、自分の気持ちをきちんと言葉に出来て満足していた。  「あ、なんかすごくわかる。松林くんも同じこと思ってたんだね。そっか、うちと同じ気持ちの人もいたのちょっと嬉しいかも…」  綾菜の言った言葉は陸の耳には届いていなかった。  「え?なんか言った?」  「ううん。なんでもない。うちもそう思えるようになる日が来るのかなって」  「え?山﨑さん可愛いって言われるの嫌なの?」  「うん。実を言うと、あんまり好きじゃない…可愛いを褒め言葉だって考えてからは楽になったと思ってた。けど、やっぱりどっかで嫌だなって感じてたみたい…。なんか、陸の話を聞いて自分は嬉しいとは思えてなかったなってことに気づいちゃった」  綾菜は初めてこの話を人にした。  「うわ、そうだったの?ごめん。さっき僕普通に言っちゃった。私服も髪型もお洒落で、ネイルも素敵だし。いつも以上に可愛いなって素直に思っちゃって。嫌な思いさせてたよね、ごめん」  陸はそう言い、軽く頭を下げた。  「でも、なんで嫌なのか聞いてもいいかな?」  陸は気になる衝動を抑えられなかった。  「んー、自分で言うのはちょっとあれなんだけど、みんなが褒めるのはいつも私の顔なんだもん。褒めて欲しいのはそこじゃないって言うかさ」  「えー、顔が可愛いって言われるの嫌なのか!まぁそう思う人もいるよね。でも、山﨑さんの今の、美しさ…?って努力の証なのにね。みんなはそれに気づいてないのかな?」  
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