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綾菜は陸の言葉に驚いた。陸はてっきり、綾菜の顔を見て言ったのかと思っていたのに、陸が最初に褒めてくれたのは服装やネイルだった。まず、ネイルをしてきたことに気づくのも驚きだった。
「ううん。気にしないで」
陸は自分の努力を認めてくれて、その上で可愛いと言ってくれたことを知り綾菜は少し嬉しかった。可愛いと言われて素直に嬉しいと思えたのはいつぶりだろうか。
「やっぱり可愛いって言われるのそんなに嫌じゃないかも」
綾菜はついそんな事を口にした。
「でしょー?でも、あんまり可愛い可愛い言ってくる奴には気をつけなよ」
「うん、心配どうも」
陸は特別な事を言ったわけではないのかもしれない。でも、同じように思った事のある人にかけられる言葉はこんなに心に響くのだと綾菜は思った。
陸は映画館に着くと、腕時計をちらりと見た。
「まだ時間ありそうだね」
「そうだね」
綾菜は映画館を見渡す。綾菜は映画も好きだが、映画館のこの空間もとても好きだ。ポップコーンの匂いや、流れてくる映画音楽に包まれる時間が少し日常とは違う感じがする。
「なんか買う?」
陸は飲食売店を指で指しながら言った。
「いいね、行こっか」
二人は注文カウンターへ向かう
「僕はこのポップコーンとジンジャーエールにしようかな。山﨑さんは?」
「え?会計別でしょ?あとから買うよ」
「いいからいいから。今日はついてきてくれたからそのお礼」
「うーん、じゃあオレンジジュースで」
「おっけー、ポップコーンは嫌い?」
「そういうわけでもないけど」
「じゃあ、こっちの大きいのにしよ。すみません。サイズこっちに変更してもいいですか?」
「そんなに食べれるかなぁ」
「大丈夫大丈夫!なんとかなるって」
陸は無邪気に笑った。しかし、いざ目の前にポップコーンが来ると陸は驚いていた。
「思ってたより、大きい…!」
「だから言ったのに」
綾菜は思わず陸を見て笑った。陸は感情がわかりやすくて、一緒にいてすごく楽だなと綾菜は思った。
中に入ると、陸はポップコーンをつまみ出し、美味しい!と言わんばかりの顔で綾菜を見てきた。綾菜もポップコーンを一粒口に運び、陸と同じように反応してみた。
「案外食べれちゃうかもね」
そう言いながら、陸はパクパクとポップコーンを食べていく。普段ならゆっくりと食べる事を心がける綾菜だったが、このままでは陸に全部食べられてしまうと思い綾菜もまた食べ出した。
すると、コツンと二人の手が当たった。初めて触れた陸の手は意外と冷たかった。
「あ、ごめん」
綾菜は思わず謝ると、陸は小声で話し出した。
「こっちこそ。あれ、もしかして僕食べるの早かった?」
「うん、少しね」
「言ってよ!美味しいからたくさん食べちゃうとこだった!もうあと山﨑さんにあげよっか?」
「そんなに食べれないって!笑」
そんな会話をしていたが、陸は映画が始まると映画に集中してポップコーンを食べる手が遅くなった。先程との違いに、綾菜はまた笑いそうになった。
映画がエンドロールを迎え、綾菜は感極まって涙目になっていたが、綾菜の頭にふとある考えが浮かび、涙が渇き始めた。
陸はエンドロールを観るのだろうか。
綾菜はエンドロールを最後まで必ず観るが、みんながそうとは限らない。綾菜はチラリと横を見る。すると、陸は少し潤った目で悲しそうにスクリーンを観ていた。
陸が同じタイプの人間だとわかり、安心した綾菜は、またスクリーンの世界に引き込まれていった。
「すごく良かったね」
周りが明るくなると、陸はそう言い綾菜の方を見た。すると陸は少し驚いた顔をした。
え、もしかして顔に何かついてる!?
綾菜はそう思い、顔を背けた。
どうしよう、恥ずかし過ぎる。とりあえず鏡を見なきゃ。
「あ、あの、私ちょっと化粧室…」
そう言い、陸の方を向くと陸は綾菜の顔にハンカチを当てた。
「大丈夫?」
陸の予想外の言葉に綾菜は驚く。
「え?」
「え!あ、泣いてたからハンカチいるかなって…」
綾菜はそう言われて初めて自分が泣いていたことに気づいた。
「嘘、気づかなかった、ありがとう」
「ははっ。いいよ、気にしないで!」
「松林くんも泣いてたもんね」
綾菜がそう言うと、陸はバッと顔を隠した。でも、赤くなった耳は隠せてなかった。
「うそ、気づいてたの?」
「うん」
「やば、恥ずかしい…」
陸はそう言い下を向いた。そんな陸を見て、綾菜は陸を可愛いと思ってしまった。今まで、可愛いと言われるのが嫌だったくせに、人のことを可愛いと思うなんて。でも、これは陸の外見がじゃない。中身がすごく可愛いと思った。そうだよね。うちの顔以外を見て可愛いと思ってくれた人だってきっといたんだよね。
綾菜は陸と話す事で、初めてその事に気付いた。陸といるとなぜだか、今まで言われたこととが素直に受け取れたり、新しい見え方がする。陸といると、自分の心が綺麗に現れていくような気がした。
あぁ、この人といると心地いいな。と綾菜は思った。
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