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F&F探偵事務所
アパルトマン風の赤煉瓦造りの建物。
エレベーターが無い為、北側階段で三階まで上がるしかない。
右から数えて三番目の扉にF&F探偵事務所と真鍮の表札がぶら下がっている。
「足音や呻き声が聞こえる。それに扉を開けるような音もだ」
本日の来客はキートンのオーダースーツに身を包んだ四十代の紳士。
髪も瞳もブラウン。痩せ型で温厚且つ気弱そうな印象を与える。
ハロルド・ブランドンと名乗る彼は世襲貴族で爵位に相応しいワース卿という別名があった。
「泥棒の仕業とお考えで?」
「まあ、そうだな」
その答えを聞いてザカリー・フォスターは無駄な時間を割かずに済んだと眉間の皺を解いた。
風の音、軋み音、空耳等の可能性は端から除外。
事件性有りと確信してこその相談でなければ。
焦げ茶革張り中古ソファに深く座り直す。
「いや──でも何も盗られていないんだよ」
だが直ぐに否定の言葉が続き、前傾姿勢に戻る。
カップソーサーの上のスプーンがカチャリと音をたてた。
「泥棒の中には、目的不明の侵入者も含みますが」
「ああ、それは分かってる」
「では、音の正体は何だと?」
「幽霊だ」
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