昭和警察

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青森県と北海道のちょうど真ん中あたりの異次元空間にその島国は存在している。時代の移り変わりを断固として認めず、昭和の元号にとことんまでこだわり続ける究極のアナクロ自治体。それが昭和県だ。 今、昭和九十七年十月。昭和県警察昭和警察署の刑事部屋に、昭和警察の熱血漢たちがひしめき合っていた。 「煙草の煙が目にしみるぜ」 男は煙草を斜めに咥えながら、一心不乱にショットガンを磨いている。禁煙なんてくそ食らえ。男は肺癌になってからが一人前。それが昭和警察の太くて短い生きざまだ。 如何なる状況でもサングラスを外さぬ無頼漢。角刈り頭の喧嘩上等。刑事課主任。(ほむら)ヤマト巡査部長。人は彼を畏敬の念を込めて師団長と呼ぶ。 炎ヤマトの部下たちは分煙などくそ食らえだ。彼らはニコチンをはじめとする有害物質満載の煙草の煙を燻らせながら、それぞれが愛用する回転式拳銃を手にとって磨き上げている。昭和警察は他の県警や警視庁のように38スペシャルなどという軟弱な豆鉄砲は使わない。手にする武器はスミス&ウェッソン44マグナムM29。あるいはスミス&ウェッソン357マグナムM28ハイウェイパトロールマン。略してハイパト。あるいはコルト・トルーパー357マグナム。ちょっと洒落た気分ならコルト・ローマン357マグナム。コストパフォーマンス度外視で格好よく決めたいならコルト・パイソン357マグナムだ。いずれにしても昭和警察はマグナムの他は拳銃として認めない。 炎師団長の机の黒電話が鳴った。電話は無論アナログ回線のダイヤル式。昭和県には携帯電話などという軟弱なオモチャは存在しない。
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