昭和警察

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サイレンを鳴らして車道へ飛び出すと、白いトヨタ・コロナマークⅡが蛇行しながら逃走を図っていた。運転しているのは金田小五郎に違いない。屋根には若手刑事の(たて)が腹這いになってしがみついている。 昭和県では警察車両が日産車なら犯人が逃走に使うのはトヨタ車であるのが暗黙のお約束である。逆に警察がトヨタ車なら犯人は日産車で逃走する。それが昭和県では善悪の垣根を越えて守るべき最低限の礼節であった。 いずれにしても昭和県にはトヨタ車と日産車しか存在しない。お洒落なマツダ車や高性能なスバル車、質実剛健なスズキ車に乗りたければ、遥々と海を越えて北海道や本州に渡らねばならぬ。 窃盗犯金田小五郎が駆るトヨタ・コロナマークⅡは蛇行を繰り返しながら逃走している。どこからともなく湧いて出た白黒パンダ塗装の日産パトカー軍団が金田小五郎の逃走車に次々と体当たりを仕掛けるが、いずれも失敗して横転。次々と爆発炎上してゆく。 「師団長!」 部下たちの悲痛な声が、無線を介して次から次へと届く。 「狼狽えるな。警官はパトカー十台を爆発させてからがようやく一人前なのだ」 炎は無線機に吠えた。 逃走車の屋根には相変わらず若手刑事の館がしぶとくしがみついている。炎ヤマトはナイトラス・オキサイド・システムを作動させ、アクセルを床まで踏み込んだ。亜酸化窒素がエンジンに流れ込んで馬力をブーストした。限界を超える強烈な加速Gによって炎ヤマトの身体が運転席の背もたれに押し付けられた。直列六気筒L型エンジンが野獣の唸りを上げた。フェアレディZが直線番長よろしく猛然と前に飛び出してゆく。映画マッドマックス2を彷彿とさせる強烈な加速に炎ヤマトの全身の血液が沸き上がった。 逃走車の後部バンパーにフェアレディZが追突。館は吹き飛ばされて炎ヤマトの視界から消えた。館の安否は不明だがよもや死んではいまい。昭和警察はたったこれしきのことで怪我をするほど柔ではない。仮に怪我をしたとて来週になれば何事もなかったかのように全快している。それが昭和警察だ! 逃走車は、横転するだけのために次から次へと登場するやられメカの白黒パンダ塗装のパトカーの群れに猛然と飛び込み、ふてぶてしく体当たりを食らわしてゆく。白黒パトカーが次から次へと横転して大爆発する。ガソリンの香りと黒煙と火炎が渦巻く大海原を潜り抜けながら、炎ヤマトの改造フェアレディZはついに逃走車と並んだ。
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