昭和警察

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「この子を家へ帰してやるがいい」 炎は言った。「はっ!」交番巡査は敬礼した。巡査は小学生を連れて戻りかけた。金田小五郎が手錠の嵌まった煤だらけの両手を頭上に持ち上げて叫んだ。 「おいおい、ちょい待てや。そいつも俺とおんなじ泥棒じゃねえか。俺が駄目でなんでそいつがオーケーなんだよ。ざけんじゃねえぞ、きたねえぞ、そのクソガキも逮捕しろよ、平等にやれや。不公平だぞ」 「黙れ!」 館刑事が金田をぶん殴った。殴られた反動で身を踊らせながらよろめく金田を、寺井刑事が反対側からぶん殴った。今度は炎ヤマトの前に金田が酩酊しながら進み出た。炎はフィニッシュのストレートパンチを金田の顔面のど真ん中に叩きつけた。 「世の中のみんなが欲しくてたまらん品薄なトイレットペーパーを大量に買いだめしようとした挙げ句、急に代金が惜しくなって盗みを働いた卑劣漢が一人前の口をきくんじゃない」 金田小五郎は「不公平だ。民主的じゃない。平等にやれ」と喚き散らしている。金田は炎ヤマトの言葉を聞いてなどいない。 燃え盛るパトカー軍団から赤い火の粉が高く高く舞い上がる。空高く伸びる火柱が、トイレットペーパー泥棒の影を地面にゆらゆらと映し出した。地表に伸びた黒い影が歪な形に歪んで笑っていた。
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