08.断罪イベント回避後、二日目

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 教室から移動するのが遅くなり、すでに中庭に設置されているテーブル席は昼食を食べる生徒達でほぼ満席だった。 (席が空くのを待つよりも、人気の少ない日当たりの良い場所に敷布を敷いて、静かにお昼ご飯を食べた方がいいわね。ディオンさんと一緒に食べているのを見られなくて済むし……)  幸いなことに、ランチバックを入れてあったトートバックの中には、ラザリーが敷布も入れてくれていた。 「なーアデライン! こっちの席空いてるってさ! 一緒に入れてもらおうぜ」  手を振って名前を呼ぶディオンの声に、人気の少ない場所を探していたアデラインは驚き、動きを止める。 「わ、わたくしは一緒でなくとも大丈夫、って、ちょっと!」  大股で近付いたディオンはがしっとアデラインの手首を掴む。 「俺の言う通りにして」  至近距離で聞き取れる声で言われ、どうしたのかとアデラインは顔を上げて……大きく目を見開いた。  手首を掴んでいるディオンの背後に、見覚えのある生徒達の姿を見付けてしまい、一気に血の気が引いていく。 「アデラインだと? 何故、お前が此処にいる」  険のある声を発した男子生徒は、アデラインとディオンを交互に見て眉を吊り上げた。  接触を避けたかった者達、赤みがかった金髪と碧眼のいかにも王子様といった容姿をした王太子ヒューバードと、彼の後ろにぴったりとくっついている黒髪黒目の異世界人リナ、二人の護衛の様に立つ王宮騎士団長子息カルロス。  アデラインに続いてヒューバード達が登場したことで、中庭で昼食を食べている生徒達からの注目が集まる。 (は? 何故、貴方が此処に居るのよ。ヒロインと一緒に食堂の一角を陣取って、大好きなランチセットを食べていなさいよ。って、あれはどうしたのかしら?)  あえて食堂を避けたのに、会いたくもない相手に会ってしまった落胆と、周囲の注目を浴びていることへの溜息を吐きそうになるのを堪えアデラインは顔を上げ、目を瞬かせた。  ヒューバードの額と右頬は大きなガーゼで覆われており、アデラインは内心首を傾げつつもそれには触れず平然を装う。 「嫌気を感じているのは一緒だ」という感情を表に出さないよう表情筋を動かして、唇を笑みの形に変えたアデラインは彼等に会釈した。 「殿下、此処は中庭ですよ。昼食を食べるために来てはいけませんか?」  俺様王子様な強気な性格の王太子ヒューバードは、顔は良くても“私”の推しではなく苦手なタイプだった。  苦手なタイプでも、まだ画面越しだったらヒューバードルートの攻略を進められた。  でも、今は画面越しの会話ではない。  嫌悪感と敵意を露わにされている上に、アデラインを破滅させようとしているヒューバードと関わりたくもないが、王太子から問いかけられて無視することなど出来なかった。 「昼食? またリナに嫌がらせをしようとして、此処へ来たのではないのか?」  腹の立つ言いがかりに反論しようと、口を開きかけたアデラインの前へディオンが出る。  ディオンの体が壁になり、ヒューバード達の姿が一時的に見えなくなった。 「アデラインを此処へ連れて来たのは俺だ。そこのお嬢さんに嫌がらせをするなんて、幼稚で下らないことは考えてないしただ昼食を食べに来ただけだよ」 「お前は……他国からの編入生か。はっ、アデライン! 他の生徒から距離を置かれているから、今度は編入生に擦り寄っているのか。惨めだな」  クラスの生徒達から距離を置かれている原因は何か、理解したアデラインの頭の中が沸騰していく。  ギリッと下唇を噛んだアデラインは横へ動いて、壁になってくれているディオンの横へ立った。 「この」 「プッ、あはははっ!」  反論しようとしたアデラインの横で、突然腹を抱えて笑い出したディオンへ周囲の視線が集まった。
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