10.何かが変わりそうな予感がする三日目

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 朝のホームルームが終了後直ぐに、学年合同実技演習の時間になった。  学年合同実技演習では、男子は模造刀を使用した実戦形式の実技と、女子は観戦と回復魔法の実技を行う。  くじ引きで相手を決めて対戦する男子の負担が多いと思われそうだが、勝利すれば卒業後に騎士団や王族から声がかかる可能性があることと、実家のメンツを保てる上に怪我をしても女子に回復してもらえる。  また、女子も気になる男子と接近できるため楽しみにしている生徒も多い。 「あの、アデライン様」  演習場の観覧席へ向かおうとしていたアデラインを、同じクラスの女子二人が呼び止める。 「もしよろしければ、一緒にディオ様を応援してくれませんか?」 「わたくし達だけでは、応援しにくくて……」  緊張の面持ちで声をひそめた女子達が見た先には、観覧席にふんぞり返って座るヒューバードと、側仕えの青年が居た。  ヒューバードの頬には昨日と同様に大きなガーゼが張られており、頬のできものを理由にして見学したのだろう。 「見学するのでしたら、見学者の態度をしていてほしいわ。いくら王太子でもあんなに偉そうな態度で、あぁごめんなさい」  つい心の声が口から出てしまったアデラインが微笑むと、女子達もつられて笑顔になる。  緊張が和らいだ女子達とアデラインは、観覧席への階段を上り空いている席に座った。 (ディオンさんの対戦相手は、王太子殿下にくっついている男子だわ。名前は……思い出せないからゲームの攻略対象キャラでもない方ね)  焦げ茶色の髪の男子生徒は、見覚えがあるからゲームの中で立ち絵くらいはあったかもしれない。  周囲を見渡した時に、校舎棟の窓からこちらを見ているリナと目が合った。 アデラインと目が合ったことに驚き、思いっきり嫌そうに顔を顰めたリナは、何事も無かったかのように顔を背けた。 「始め!」  ブンッ!  審判役の教師が開始の声を発すると同時に、一気に間合いを詰めた男子生徒の上段からの振り下ろしを紙一重でかわし、ディオンは横に飛び退く。  舌打ちした男子生徒が退いたディオンを追い、模造刀の柄を両手で持つと突きを繰り出した。  模造刀の切っ先が当たる直前、ニヤリと口角を上げたディオンは身を屈め、模造刀の切っ先は結んだ髪を掠めていく。   「なっ、があっ!?」  ガンッ!  屈んだ体勢で一歩踏み込んだディオンの手が動き、模造刀の先で男子生徒の握る模造刀を打ち上げるように、上方へ弾き飛ばした。  カランッ!  何が起こったのか理解出来ていない男子生徒は、模造刀が石のステージ上に落ちた音で自分の持っていた模造刀が弾き飛ばされたと理解した。 「勝者! ディオ・カルス!」  大声で教師はディオンの勝利を告げ、一瞬の間を置いて演習場は歓声に包まれた。 「ディオ様すごい! 格好いいっ!」 「見えなかったわ。すごーい」  声をかけてきた時とは打って変わって興奮する女子の声が届いたのか、ディオンは観覧席の方を振り向き笑顔で手を振る。  手を振る女子と一緒に、遠慮がちに手を振ったアデラインへ向けて、ディオンは歯を見せて笑った。  握手を交わしたディオンが場外へ出た時、観覧席に座っているヒューバードと目が合う。  明らかに苛立っているヒューバードを見上げて、ディオンは手を左右に振って嗤った。 (挑発している、わね。見学している殿下が対戦するために下りて来るわけにはいかないし、カルロス様と対戦させるために動くのでしょうね)  冷めた目で見ていたアデラインの視界の隅に、ヒューバードの側仕えの男性が観覧席から演習場へ下りて行くのが見えた。
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