10.何かが変わりそうな予感がする三日目

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 報告書を読んでいくうちに、アデラインの手が震えてくる。  金狼からの報告書に書かれていることは全て、友人達からの好感度を上げるミニゲームと、攻略対象キャラとの親密度を上げるための恋愛イベントと一致していたのだ。 (ゲームでは攻略対象キャラの親密度と友人達の好感度をあげるため、イベント発生させていたけれど……真面目に考えたら勉学をおろそかにして遊んでいるだけ、友人を物で繋ぎとめているだけに思えるわ)  授業中の密会は、誰かに見られるかもしれないというスリルによって親密度は上がっても、評価は下がるだけだ。  燃え上がっている二人を応援するのは、王太子の取り巻きと恋愛に憧れを持つ一部の女子だけ。 「授業に出席せずお会いしているとは、仲睦まじいお二人ですね」  昨日、中庭で険悪な会話をした後の授業に出席せず、誰もいない特別教室でヒューバードとリナの二人で休養していたという一文には、呆れ果ててしまい乾いた笑いが込み上げてくる。 「これは写しだ。全ての情報は契約終了まで金狼と公女で共有する」 「はい。よろしくお願いいたします」  自分だけが報告書を持っているのは不安だが、契約終了までは信頼できる相手、クラウスが持っていてくれるのなら安心だ。 「では、手を出せ」  クラウスに右手のひらを出され、アデラインは反射的に左手を差し出した。  差し出された左手を掴んだクラウスは、ジャケットのポケットから取り出した銀色の指輪を、アデラインの人差し指に素早くはめた。 「指輪? あっ」  指輪に気を取られていると、左手で持っていた報告書が発光し無数の粒子と化す。  無数の粒子は、人差し指にはまっている指輪に吸い込まれていった。 「情報は指輪の中に収納され、公女が取り出したい時に出せる。この指輪は契約終了まで外せない。指を斬り落とされたとしても、俺が解除するまで外れんよ」 「指を斬り落とすって、でもこれなら紛失と盗難は防げますね」  試しに、人差し指と親指で摘んで指輪を引っ張ってみるが、皮膚の一部になったかのように指輪は微動だにしなかった。 「少し怖いけど、可愛いからいいかな」  事前に何も告げずに、指輪をはめるのはいかがなものかと思うが、呪詛が込められていた装飾品を処分したらアデラインの手元に残ったのは、普段使いには不向きな派手なものだけだった。  普段使いできる、薄ピンク色の石がついた可愛らしいデザインの指輪を貰えたことは、好意から渡されたのでなくとも嬉しい。 「ありがとうございます」  左手を胸元に当てて、アデラインはやわらかく微笑んだ。  嬉しさを隠さず笑顔になるアデラインから、口を開きかけて閉じたクラウスは顔を背ける。 「……学園で不自由なことは無いか?」 「ディオンさんが気に掛けてくれるので、以前よりも過ごしやすいです。今日の実技演習では、ディオンさんが騎士団長子息を打ち負かしてくれました。殿下の悔しそうな顔を見られてスッキリしました」  試合後、ディオンとカルロスが握手をした瞬間、観戦していた生徒達から拍手が贈られた。  ほとんどの生徒が笑顔だったのに、ヒューバードだけは苦虫を嚙み潰したような顔をしていて、アデラインは吹き出しそうになった。  思い出す度に「ざまあみろ」という感情が湧き上がってくる。
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