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“君と紡ぐ恋の魔法”
黒髪黒目の女性だった“私”が楽しんでいた携帯端末で楽しめるアプリゲーム。
君と紡ぐ恋の魔法は、一人の少女が剣と魔法のファンタジーな世界へ、レストレンジ王国に異世界転移して場面から始まる。
国境沿いの森を彷徨っていた少女は異世界の迷い人として辺境伯に保護され、自分の生まれ育った世界へ戻る手がかりを探るため、この世界の知識と魔法を学ぶことにした。
それから半年後、辺境伯の長男と一緒にレストレンジ王国王都にある学園へ入学したヒロインは、王太子や貴族子息といったやたらと顔面偏差値が高い男子生徒と知り合い、親しくなっていくという内容だった。
ヒロイン育成と甘酸っぱい恋愛を楽しみ、意地悪令嬢達からの妨害という名のミニゲームをしたり、実技訓練では魔物と戦ったりと、恋愛アプリゲームとしては王道なストーリーだ。
攻略対象となるのは、アデラインの婚約者だった王太子ヒュバート、宰相子息ブライアン、騎士団長子息カルロス、この世界での保護者となった辺境伯子息サミュエル、そしてアデラインの義弟エリックと執事のレザードの六人。
さらに、全ての攻略対象キャラとハッピーエンドを迎えた後に解禁されると噂のあった、まだ公式から発表されていない隠しキャラを入れたら七人いる。
「これは所謂異世界転生? 憑依ってやつ? どうせならヒロインならよかったのに。何でよりによってアデラインになんて、きゃあっ」
呟いたアデラインは一歩後退り、床に敷かれた古い絨毯にヒールが引っ掛かってよろける。
「そうか……今のアデラインは、王太子殿下に捕らえられた後なのね。もうアデラインの未来は決まったようなものじゃない!」
着ているドレスと混乱する記憶を探ったアデラインは、自身が置かれている状況とこの部屋が何処なのかようやく理解した。
「ううっ」
この部屋に入れられる前に、何が起きたのか思い出そうとして心臓が激しく脈打ち、息苦しさに胸元を押さえた。
数か月ぶりに、婚約者の王太子殿下から『離宮の庭園を眺めながら話をしよう』と誘われて浮かれて出掛けたのは今日の昼過ぎ。
離宮の庭園へ向かったアデラインを待っていたのは、王太子ヒュバートだけでなく宰相子息ブライアンと騎士団長子息カルロス、そして何故か義弟エリックと執事のレザードだった。
側近候補達はともかく、何故義弟と執事までいるのかと戸惑うアデラインの前に、王太子が“お付き合いしている”という異世界人の少女と、彼女を守るように寄り添っている辺境伯息子まで現れた時、やっとこの話し合いの場が自分を断罪するものだと気が付いた。
(寒々しい空気の中、話し合いが始まったのよね。ヒロインがお茶を飲んだ途端、お茶を吐き出して苦しみ出した。驚いて椅子から立ち上がったわたくしに対し、『毒を盛ったのだ』と彼等は一方的に決めつけてきて、弁解の余地も無く殿下の命令で駆け付けた騎士達に捕縛された)
アデラインが捕らえられた場面は、画面越しの映像と実際体験した記憶が混じり合い、再び脳内が混乱してくる。
押さえ付けられた手首と後頭部と背中の痛みが無ければ、悪い夢か幻覚を見たのかと思っていただろう。
『アデライン! 貴様がリナに嫉妬して飲み物に毒を混入したのだろう! この下劣な魔女が!』
恋愛感情は抱いてもらえていないと分かっていたとはいえ、緑色の瞳に憎悪の炎を燃やしたヒュバートから罵倒され、恐怖と絶望で震えあがった。
「そうだ。リナだわ。ヒロインのデフォルトネームはリナという名前だった」
駆け付けたブライアンがかけた解毒魔法によって回復したらしいリナは、そのままにブライアンに抱き抱えられて怯えた目でアデラインを見ていた。
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