11.周囲と自分の変化に気付いた四日目

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11.周囲と自分の変化に気付いた四日目

 “私”の意識がアデラインの中に蘇り、時間を逆行して断罪イベントを回避してから四日目。  委員会の仕事があると言って、早い時間に朝食を済ませて登校したエリックとレザードとは全く顔を合わせず、アデラインはラザリーに見送られて登校した。  教室のある階まで上がってすぐに、違和感を覚えてアデラインは足を止める。  何が変わっているのかと問われても堪えられないが、昨日までと明らかに校舎内の雰囲気が違うのだ。 (気のせいではないわ。換気不足の部屋の窓を開けて淀んだ空気を入れ替えた、という感じ? それに明らかに周囲の生徒達がわたくしに向ける目が違う。よそよそしさは残っていても、刺々しさが消えて敵意が薄らいでいるわ)  昨日は何があったのかと考えて、学年合同実技演習のことを思い出した。 「おはようございます」 「おはよう……」  教室へ向かうとクラスメイトから挨拶をされて、アデラインは昨日までとの違いに戸惑う。 「アデライン、おはよう!」  机に寄りかかって男子生徒と談笑していたディオンが、教室の入口で立ち止まっていたアデラインに手を振った。 「おはよう、ございます」  ぎこちなく挨拶を返すアデラインの側まで駆け寄ったディオンは、彼女の耳元に顔を近付けた。 「潰してから変わっただろ? 明日はもっと変わるよ」 「え? あっ!」  顔を上げたアデラインの手から鞄を奪うと、ディオンは自分の席へと戻って行った。 (潰してった、実技演習でのこと? どうなっているの?)  言われた言葉の意味が分からず、悶々としたまま授業を受けることになった。 「昨日、何かしたの?」 「さぁ? カルロスを叩き潰しただけだよ」  休み時間に、ディオンに聞いてもはぐらかされてしまい問うのは諦めた。  金狼のメンバーが裏で何かしていても、ディオンはマスターの許可が無ければ教えてくれない。  クラスの雰囲気が良くなることは、アデラインにとっても良いことなのだから、気にしないことにした。  午前中の授業が終わり、生徒達は昼食を食べるため教室の外へ向かう。 「アデライン様、よろしければ一緒に食べませんか?」 「ご迷惑でなければ、そのディオ様もご一緒にどうでしょう?」  声をかけてきたのは、昨日の実技演習で一緒に観戦をしようと誘ってくれた二人の女子生徒だった。  女子生徒の一人が落ち着かない様子でディオンを見ていることから、彼女の気になるモノが何かを覚ったアデラインは微笑んだ。 「ありがとう。ぜひご一緒したいわ。ディオさんはいいですか?」 「アデラインがよければいいよ」  聞いた者が勘違いしそうなことを言ってくれたディオンは、女子生徒からの熱い視線を無視して「席の確保をする」と先に食堂へ向かった。  話しかけて来る女子生徒との会話にまだ慣れず、聞き役に徹してアデラインは食堂へ向かった。  食堂へ向かう途中の渡り廊下でエリックとすれちがっても、彼は何も言わず目も合わせなかった。  混雑する食堂では、生徒達の隙間から手を振るディオンの姿が見えて、彼の確保しておいてくれたテーブル席へ向かう。  ディオンの隣には背の高い男子生徒の姿があり、アデラインと女子生徒達は顔を見合わせてしまった。 「カルロスも一緒に食べていいか?」  歯を見せて笑うディオンとは違い、カルロスは諦めたような顔でアデラインと女子生徒達を見る。 「俺と関わって、アデライン嬢に迷惑をかけるわけにはいかないと言ってんだが……ディオに押し負けてしまった」 「お前もあっちで食べるより一緒に食べた方が楽だろ」 「ぐっ」  バンッと音が鳴るほどディオンに背中を叩かれ、体を揺らしたカルロスは呻く。 (カルロス様がヒューバード様の側から離れた? そうか、昨日ディオンさんに負けたことで側近から外されたのね)  食堂内を見渡してもヒューバードとリナの姿はない。  金狼の調査結果に書かれていた密会場所、生徒会長室か図書館前のベンチにいるのだろう。 (カルロス様は今後を考えたら喜べないだろうけど、金狼の報告書を読んだかぎりでは真面目な彼は授業をサボることはせず、お茶会に参加することは無かった。今は落ち込んでいても、ヒューバード様達から離れられて良かったと、後々思えるはずだわ)  持っていたバスケットを置き、アデラインは首を動かして後ろを振り向く。 「わたくしは迷惑ではありませんけど、貴女達はどうでしょうか?」 「私達はかまいません」 「カルロス様とディオ様とご一緒できて嬉しいです」  瞳を輝かせて、カルロスとディオンを交互に見た女子生徒達は声を弾ませた。
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