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柴崎九段は頭を抱えて思い悩む。
長らく"雀神"の称号を保持する彼は近年、極度のスランプに陥っていた。
居た堪れないことに公式戦20連敗を記録し、
所属協会のリーグ戦も十数年ぶりに降格してしまった。
「柴崎先生も年かな。見る見る腕が落ちてきているし」
「あの人の麻雀は正直時代遅れだよな」
塞ぎ込む柴崎には、自分を貶める噂を常に囁かれている気がしてならなかった。
柴崎の麻雀スタイルは高打点の時機をじっくりと窺う門前型である。
対する現在の流行である副露型は小刻みに得点を積み上げていく。
他者の捨て牌を拾得する副露が一度発生すれば、対局の進行速度は急激に高まる。
目まぐるしく移り変わる展開に、地道に手牌を育て上げようとする柴崎は
いつも置いてけぼりを食らうのだった。
苦難を耐え忍ぶ間も時は無情に流れ行く。
復調の糸口すら掴めないまま、とうとう雀神防衛戦の日が訪れた。
全国津々浦々の雀士が最強を名乗るために集う一世一代の大勝負である。
柴崎が雀卓へ向かう頃には、3人の挑戦者が鬼の形相で待ち構えていた。
つい1ヶ月前に還暦を迎えた彼は、
皺の寄った皮膚の上を桁違いの殺気が這いずる様を体感する。
整えられた牌山の表面は燻った山吹色に染まっていた。
心身の重力負荷を押し退け、親番 柴崎の右手は恐る恐る前方に伸ばされる。
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