38人が本棚に入れています
本棚に追加
国士無双の完成には、中張牌、すなわち数牌の二から八が不要になる。
当然それらを手配から優先的に捨てていくことになるわけだが、
全うに面子を作るのであれば、
順子になりやすい中張牌を気兼ねなく切るはずがない。
柴崎の河に溢れる中張牌が、暗に国士無双の到来を報せていたのである。
「私たちが么九牌を切らなければ、
国士無双が直撃することは100%ありません。
もう諦めた方がいいのでは?」
門脇のわざとらしい挑発に対しても、柴崎は依然として動じない。
ただ自分にできることに誠心誠意取り組むだけだった。
「ポン!」
たった今、柴崎が捨てた七萬を副露した門脇。
東1局と同様に断么九の成立を目指す。
現在首位を堅持する彼は得点の大小関係なく和了りさえすればよかった。
副露型はとにかく和了が早い。
能天気に過ごしていたら、たちまち終局してしまう。
焦る柴崎は一巡でも早く白を掴み取りたかった。
次に彼が牌山から一枚を引き抜いた瞬間、
全身に衝撃という名の稲妻が駆け巡る。
白の表面はまっさらとしか言い様がない。
親指の腹が知覚するのっぺりとした感触は、牌の正体を迷いなく示していた。
ここで「ツモ」と宣言すれば、めでたく国士無双の和了となるが、
1着を奪取するには点数が僅かに足りない。
雀神を護るには2着ではいけない。
閉ざされた道を切り拓く唯一の手段を彼は知っていた。
ただ、それはあまりにも現実味を帯びていなかった。
東4局が始まるまで考えが至らなかったのもその所為である。
眩む視界に向けて、柴崎は心臓から唸り声を上げる。
奇跡を一途に願った咆哮であった。
苦渋の決断の末、彼は和了らずに手牌の中で被っていた一索を捨てた。
天空を追放された鳳凰が再び彼のもとへ帰ってくることを信じて。
最初のコメントを投稿しよう!