飛べよ老鳳凰

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 なかなか三・六萬が顔を出さず、本局は14巡目に突入する。 柴崎以外が大量にそれらを抱えていることは明らかだった。 「ロン!」 和了を高らかに宣言したのは威勢のいい門脇の声だった。 彼の鋭い眼光は左隣に座る緒方八段の捨て牌 四筒(スーピン)を一直線に捕らえた。 得点は断么九(タンヤオ)のみのたった1,000点であるが、 柴崎の和了を防いだ事実は素点の少なさを補って余りある。 勝負手を逃した柴崎は悔しさを歯軋りで磨り潰す。 一方、門脇の餌食となった緒方は口惜しがるわけでもなく、 門脇と目配せしては悪戯にほくそ笑んでいた。  門脇が持ち点27,000点で僅かながらトップに立った東2局。 親番は柴崎から緒方に移る。 東1局に反して引き(ツモ)が芳しくない柴崎の表情が曇っている。 せっかくの大チャンス手を流され、(ツキ)が離れてしまったのだろう。 空気のひりつきが未だ治まらない10巡目、門脇の冷笑がいっそう狂気を増した。 「お手柔らかにお願いしますよ。立直!」 立直棒を出す際の振動が河を無造作に崩す。 和了(アガ)れる見込みのない柴崎は守備に徹することに。 "振聴(フリテン)"というルールにより、 自分が捨てた牌と同じ牌でロン和了することはできない。 つまり、牌山が尽きるまでずっと、門脇の河を成す安牌を捨てていけば、 立直の直撃を確実に凌げる算段であった。
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